▼ナツ→タク→ハナ→ナツ? ※捏造注意 「タクト!」 「……今日も元気だなぁ、ナツオは」 赤く染まった夕焼け空をぼんやりと眺めていたタクトに元気に声を掛けてきたのはナツオだった。 ナツオはいつも元気で明るくて何があっても笑っていた。初めて会った時からそれはずっと変わらなかった。 「タクトは空、好き?」 「……青空は好き」 何てことない質問にタクトが少しずれた答えを返すが、ナツオは気にした様子もなくふーんと言って空を見つめている。 「じゃあ、夕焼け空は嫌いなのか?」 「嫌いじゃないけど、別に好きでもない」 何でこんなこと訊くのかとタクトは不機嫌そうな表情を浮かべながら思うが、隣で夕焼け空を見つめるナツオの横顔に押し黙った。 「僕は空が好きだよ、夕焼け空も」 「ふーん」 「どうでも良さそうな態度やめろよなーもう」 ナツオは少し叱りつけるように眉をつりあげて怒るが、本気で怒っている訳ではないらしくすぐにまた笑った。 「でも、勿体ないな……すごく綺麗なのに」 「何が?」 「夕焼け空!」 そう空を見つめながら言うナツオの気持ちがタクトにはよく分からなかった。 タクトからすれば、どんなに綺麗だって空は空だ――決して手に入りはしない。 「――それに触ることだって」 「それでもいいんじゃない?」 やっぱりナツオの言うことはよく分からない。 いつもそう言うとナツオは少し困ったような顔をしてからまたあの笑顔で深い意味はないよと言うのだ。 「手に入らなくても触れなくてもいいって思うんだ」 「……」 その時、タクトは直感的にナツオが自分が見ているのとは違う何かを見ているのを感じた。 「見ていられるだけで十分過ぎる位幸せだからさ」 「そんなの――」 綺麗事だよと吐き捨てるように呟いたタクトをナツオは優しい目でただ見つめていた。 ナツオはタクトが自分を本当の意味で見てくれることはないのをとっくの昔に知っていた。 (だって、タクトが好きなのは僕じゃない――) 偶にタクトからの視線を感じる時がある。そんな時のタクトはいつもナツオが求めるようなものではない思いを秘めている。 羨ましい、なんて簡単な感情ではない。もしかしたらタクトはとうの昔に諦めているのかもしれないと思う。 「だからさ、僕は夕焼け空好きだよ」 「何がだからだよ、意味わかんないって!」 そして、タクトはもしかしたら自分のこの気持ちが分かっているのではないかと思う時がある――そんなこと有り得ないというのに。 「ところで、タクトいいの?」 「何が?」 悪戯好きな子供のような表情でナツオはタクトにそう言って、暗くなり始めた空を指差した。 「あんまり遅くなると怒られるんじゃない?」 「うげっ……!」 タクトは慌てて立ち上がってナツオに背を向けた。 「ナツオも暗くなる前にサッサと帰れよ!」 「分かってるって!大丈夫、大丈夫」 そんな分かっているんだか逆に不安になるようなナツオの返事にタクトは肩を落とした。 ナツオのこのマイペース加減には慣れたつもりだったのだが、そんなことはなかったようだと苦笑いした。 「あ、あと……」 「ん?タクト、忘れ物?」 慌てて走り出そうとしていたタクトが何かを思い出したように立ち止まった。 「夕焼け空は別に好きじゃないけど、夜空……っていうか星空は好きだからさ――」 「うん……?」 意図が掴めず、首を傾げて聞いていたナツオだったが、背中を向けたままのタクトのちらりと見える耳が赤いことに気付いて目を見開いた。 「今度、一緒に星を見に行こう」 そう言ってタクトは振り向かずに走っていった。 ナツオはただその小さくなっていく背中を見つめていた。 「ははっ、……本当ずるいなあ、タクトは」 その場にへたり込んで参ったようにただ笑った。 タクトはナツオをよく分からないし、多分一生敵わないと言って憚らないけれど、実際は逆なんじゃないかとナツオは言いたかった。 「手に入らなくても触れなくてもいいと思ってたのに、なぁ……」 手に入るかもしれないと思ったらその途端に色んな思いが込み上げてきてどうしようもなかった。 込み上げてくればくる程、変えようのない事実を思い出してただ胸を押さえた。 この恋の終着点はどこに──? ――――――――― ナツオの捏造はんぱない……けど楽しいです、すみません |