◎タクトが声フェチ ◎スガタのキャラが少し変 「その初めて会った時からずっと気になってたんだ」 二人きりの放課後の教室というこの状況に男子高校生である自分がいるのはいい。 実に青春を謳歌しているといえるシチュエーション。 しかし、目の前にいるのは 「タクト…?」 ツナシ・タクト 立派な男子高校生である。美少年だけど。 島にやってきた謎の美少年、と言えば聞こえは良いが、実際のところはよくわからない変な少年だとも言える。 そんな少年にまさかこんなシチュエーションで頬を赤く染めながら声を掛けられるなんてことは想像したこともなかった、というかしたくない。 確かに彼自体は悪い奴ではないとは思う。 だが、それとこれとは話が別で、男同士という禁断の恋に青春への憧れのようなものを持つタクトが惹かれるのも分からなくもない、かもしれない…多分。 しかし、自分はてっきりワコに惹かれているとばかり思っていた。 彼の心は初めて会った時から自分に向いていた、というのか。 正直に言えば気付かなかった。自分は人の心の機微には敏感だと思っていたが、そんなことはなかったということなのか彼の気持ちを考えると申し訳なさが込み上げてくる。 だが、彼の気持ちに応えることは僕には出来ない。 ここで自分の気持ちを偽って彼と交際することは不可能ではないが、それにより彼をもっと深く傷付けてしまうと思うと辛い。 ならば、今ここで情が移らぬ内にきっぱりはっきりとお断りをしなければならない。 これがけじめというものだ。 そして、僕はやっと覚悟を決めて彼の綺麗な髪と同じ色をした瞳と向き合った。 「タクト、僕は」 「スガタの声が、」 「好きなんだ」 「ん?」 彼は今なんて言ったのだろうか、 「僕の、声が…」 「いいよな!すごい格好いい」 格好いい、という彼の言葉に何故かドキッとした気がしたが、多分気のせいだろう。 色々な驚きで呆然としている僕を放置して彼は実に楽しそうに笑っている。 さっきまで恥ずかしそうにしていたのはどこへ行ったのかと聞きたくなる程の豹変ぶりだ。 「格好いいなって思ってたんだ!初めて会った時から」 「僕の、声が…」 まさかという想いは彼の嬉しそうな肯定の声と妙に輝き尊敬の念すら抱いていそうなその瞳により綺麗に打ち砕かれることになった。 しかし、今自分が何故彼の言葉に落胆したのかは心の隅にそっと隠した。 ******** 「僕の声、に惹かれたというのはわかったが」 「やっぱり変か?」 「え?」 先程までの喜びが嘘のように小動物のような頼りなさで俯き小さな声で呟いた。本当に気持ちに波があるなと思いながら 「別に。所謂声フェチとかいう類の人間はいるし、おかしくはないと思うけど」 「いや、おかしいんだよ…!」 せっかくあまりに落ち込んでいるのでフォローしたのに彼は首を横に振り必死で否定した。 「は、初めてなんだ……」 ボソボソと恥ずかしそうに紡がれる言葉に何か独特のものを思春期の子供なので感じ取ったもののこれでもクールでポーカーフェイスには自信がある。考えてしまったあれやこれやは頭の隅でぐるぐると再生されてはいるが、ワコのように他人にバレることはない、多分 「男の子の声、好きになったの」 「今までは普通に、それこそスガタの言う声フェチってやつで女の子の声とか聴くと可愛いな、とか癒やされるなあとか思ってた」 タクトの口から女の子の話を聞くのは妙に癪に障る。もやもやとした気持ちを抱えたまま彼の辿々しいゆっくりとした話をぼんやりと聞いていた。 「でも、君に初めて会って声を聴いた時に」 「格好いいな、と思ったけどそれだけだった。それだけで終わる筈だったのに」 僕に応えを求めている訳ではないかのようにやや途切れながらも精一杯に何かを伝えようと口を開く彼の様子が妙に愛おしくて抱きしめてあげたいとすら思った、いつもよりやけに頼りなく見える肩を見ながら。 「君と居ると話してなくても安心する。でも安心してるのに何故かドキドキする。君のことを知れば知る程おかしくなるんだ」 必死に伝えようとしているタクトの声を聴いて 「君が他の人と話してるともやもやする。話しかけられるとすごく嬉しいんだ」 すごく身に覚えのある不可思議なその現象。それは 「これは君に恋してるのかな」 自分の頭の中で馬鹿な位沢山の言葉を使ってもなかなか上手く口から放つことの出来なかった、僕の言いたかった筈の言葉を彼は呟いた。 「君の声が好き。だけどそれ以上に僕は、多分」 「君のことが好き」 ごちゃごちゃと頭の中で組み立てていた言葉や考えは彼のそんな単純明快な一言で一気に崩された。 そして、その言葉は僕が一番彼に伝えたかったことだった。 「僕も君のことが好きみたいだ」 彼が好きだと言った声でシンプルだが、何より伝えたかったことをそっと囁いた end ――――――――― スガタみたいに割と静かで穏やかなタイプの人が心の声が騒がしいとかごちゃごちゃ考えてたりするっていうギャップが好き |