▼ケイトとタクト ▽スガタク前提でスガ←ケイ 「あ、ごめん」 「……いえ」 ケイトは教室に入ってきた人物の謝罪の言葉に素っ気なく返した。振り向かなくてもそれが誰かは分かっていた。 ――ツナシ・タクト、その名前を頭に浮かべてケイトは密かに形の良い眉を歪めた。 『彼』の隣にいるのはタクトで、私ではない。ワコでも私でもない、あんな――そこまで考えてケイトは視線を感じて顔を上げた。 「……何か」 「いや、何読んでるのかなって」 そう言ってタクトが指し示したのはケイトが読んでいる本だった。だが、実際はさっきまで読んでいたといった方が正しい。何故ならケイトの静かな読書の時間はこの目の前の存在により終わりを告げていたからだ。 「その本、どこかで見た気がして」 「どこにでもある普通の本ですから」 そう、普通の本だ――私にとっては特別だけれど。 「あ、分かった」 タクトが何かを思い出したように嬉しそうに顔を上げるのを横目で見た。 「もしかしたら、スガタがこの前読んでた本と同じかな」 「……」 タクトのストレート過ぎる言葉にケイトは完全に停止してしまったが、当の本人はそんなに見事に答えを的中させてしまったことには気付いていないらしく呑気なものだった。 「良かったらなんだけど、読み終わったら……」 「嫌です」 「さ、最後まで言ってないのに」 眼鏡を光らせたケイトの厳しい一言にタクトは肩を落とした。そんなタクトの分かり易い感情の動きをケイトは観察するような目で見つめていた。 「どうせ貸して欲しいと言いたいんでしょう?」 「まあ、そうなんだけど……やっぱり駄目?」 「お断りします」 強請るような上目遣いの視線を向けてくる彼にケイトはため息を吐きながらはっきりと断った。 そんなケイトの言葉に本当に残念そうに落ち込んでいるタクトを見て、自分もこんな風に素直に感情を出すことが出来たらもしかしたら彼にも―― 何を考えているのだろう、仮定の話なんて無駄でしかないのに 「あなたは可愛いのね」 「えっ?……え、委員長さん?」 「思ったことを言っただけよ」 唐突過ぎるケイトの言葉にタクトは真っ赤になってまだ妙な声を上げている。 やっぱり可愛いと思い、少し悔しい想いを抱きながら本を閉じた。 「読み終わったからどうぞ」 「え、でも……」 「もう私には必要のない物だから」 貸すのではなくあげると言うケイトに流石に困ったようにタクトは声を上げるが、彼女はそんなタクトを気に止める様子もなく、本を手渡して優しく微笑んだ。 笑顔だが妙に威圧感のあるケイトに少し怯えながらもタクトは好意に甘えることにした。 「あなたにあげる」 「あ、ありがとう……」 そして、教室からすたすたと去っていく後ろ姿を見つめて小さく呟いた。 「あんな風に笑えるんだ」 いつももっと笑えばいいのに、とぼんやり考えてケイトに手渡された本の表紙に目をやって一瞬呆然としてから苦笑いした。 「恋愛極道……ってなんだろ」 あんな真面目な表情でケイトが読んでいた本のタイトルのあまりの意外性に一人脱力した。 私の恋心をあなたにあげる 「あれ、でもこれスガタも読んで……」 ――――――――― 恋愛極道についてはまあ、あれです。 とりあえず、ケイトさんの活躍に期待しております! あと、スガタさんが真面目な顔ですごいタイトルの本読んでたらいいよね……すみません |