▼ヘドタク
▽同居パラレル






「あ、えっと初めまして……」
「タクト君か、ようこそ」

赤い髪の少年の辿々しい挨拶にヘッドはにこやかに答えて歓迎した。
心からの笑顔だったのだが、タクトがその笑顔に更に顔を引きつらせているのを見る限り胡散臭い笑顔に見えてしまったようだと気付くがこればかりは致し方ない、最早一種の癖なのかもしれない。

「まあ、これから一緒に暮らすんだから仲良くしようね」
「……はい」

少し後悔している様子だが、これも彼が選択したことだから文句はないだろう。このマンションの管理人である自分に今まで疎遠だった親戚の子供を預かって欲しいと言う言葉に驚きはしたが、すぐに了承してしまった自分自身のその時の感情は未だによくわからない。


「管理人さん、なんですよね」
「まあね……ここの住人は物分かりがいい人ばかりだから楽で助かるよ」

タクトが真に気になる部分はそんなことではないのだろうが、ヘッドは茶化すように笑ってそう答えた。
タクトの少し不機嫌そうな表情を横目で見て子供らしいな、と小さく微笑んだ。彼は話によると行きたい高校が実家から離れていたので一人暮らしをすると言い張ったが、祖父に反対されたらしい。そこで白羽の矢がたったのが自分だったという訳なのだが――少し子供っぽい表情を見ていると確かに一人暮らしをさせるのは不安かもしれないなと密かに納得した。

「――あの」
「ん、どうかした?」

部屋に案内すると思っていたものより広い室内に驚きの声をあげていたタクトが何かに気付いてヘッドに静かに声をかけた。

「この部屋に二人で住むんです、か……」
「ああ、結構広いから大丈夫だよ」

笑ってそう返すヘッドにある一室の扉を開けて固まっているタクトにそう言うと益々固まってしまった。
ヘッドは不思議に思いながらもソファーにゆったりと腰掛けた。

(まあ、彼もまだここに慣れていないから緊張してるんだろう)

タクトの少し小さな背中を優しく見つめてヘッドは微笑んだ。
――つまりタクトの気持ちは全く伝わっていなかった


「何で、」
「――ん?」

「何でダブルベッドなんですか!!」
「あれ、嫌だった?」

タクトの焦りやら怒りがごちゃ混ぜになった大声にもヘッド全く動じた様子はなく平然と首を傾げて不思議そうにしている。

「大丈夫だよ、寝相はいい方だから」
「そういう問題じゃないです」

少し落ち着いたのか顔を引きつらせながらではあるが冷静にそうつっこんで小さくため息を吐いた。

「……もういいです、はぁ」
「タクト君は思春期ってやつかい?」

だからそういう問題じゃないと思いながらもこれ以上言っても疲れるだけだと諦めて、暗くなり始めている窓の外に気付いて時計に目をやった。

「そう言えば、晩ご飯はどうするんですか」
「タクト君は何がいい?」

そう言って差し出されたピザや寿司の出前のチラシに驚きながらもヘッドに任せることにした。




―――
「ごちそうさまでした」

タクトはヘッドが頼んだ寿司を食べ終えて手を合わせてヘッドに礼を言った。

「美味しかったかい?」
「はい!たまにはこういうのもいいですね」

これはタクトの心からの言葉だったのだが、ヘッドはその言葉に不思議そうに首を傾げている。そんなヘッドの様子にタクトは一抹の不安を感じつつ恐る恐る訊ねた。

「……どうかしました?」
「いや、いつも食事はこんな感じなんだけど」

そのヘッドの言葉を聞いてタクトはゆっくり深呼吸をしてよく考えようと心を落ち着けた。
つまり、彼はタクトの言った「たまには」という言葉にいつものことだと言いたい訳で――そこまで考えてタクトは机に手を置き立ち上がった。

「いつもこんな感じなんですか!!」
「だって料理出来ないからね」

タクトはそんな彼の返答に益々頭を抱え込んだ。典型的な一人暮らしの男性ではあるが、健康にはよろしくないだろうとタクトは母親のような心配で一杯だった。

「……明日からは僕が料理しますから」
「えー」
「えーじゃない!!」

ヘッドの不満げな声に怒る様は本当に母親のようだったが、本人に自覚はなかった。
タクトは祖父との暮らしで料理はそこそこ出来たのでそう言ったのだが、本格的に彼の栄養管理をしなければという妙な使命感に燃えていた。

「若妻が来たって感じだね」
「……夫だって言うならもっとしっかりしてもらえますか?」

タクトのきつい言葉にヘッドの笑顔が少し引きつった。しかし、最初に会った時より幾分元気になっているタクトを見てヘッドはこんな生活も悪くないかと優しく微笑んだ。



「あれ、もしかして一人暮らしを心配されてたのってタクト君じゃなくて……」
「……深く考えない方がいいですよ」





―――――――――

駄目な大人なヘッドさんと意外としっかりしてるタクト……同棲パラレルの方が正しいかも





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