▽スガタク




「あれ、タクト君寝ちゃってる」

スガタとワコは委員会の仕事があったのでタクトに先に帰っていいと言ったのだが、残っていたらしくタクトは机に突っ伏して寝ているようだ。
帰ってていいと言った時のタクトの微妙な表情を思い出して、もしかしたらと思い教室に顔を出して良かったとスガタは心底思った。待っていたいならいたいでそう言えばいいのにタクトは妙なところで言いたいことを言わないことがある。タクトは素直に見えて何を考えているのか分かり難いということにスガタは気付いていた。


「タクト君、タクト君!」

ワコがタクトの体を揺さぶるが、あまり反応はなくワコは困ったように肩を落とした。


「ワコ、もう外も暗くなるし先に帰ってていいよ」

「え、でもタクト君は……」

ワコの肩を叩いて安心させるように微笑みながらそう言うが、ワコはタクトが心配なのか顔を曇らせた。

「僕が寮に連れて行くから、大丈夫」

「でも、……」


尚も心配そうな表情だったワコだが、スガタの表情を見て何か考えるように瞬きしてから納得したように笑った。
「じゃあ、邪魔しちゃ悪いし!また明日」

「ごめん、ワコ。また明日」


悟った表情で大きく頷いてそそくさと扉まで移動してスガタに手を振りワコは元気に帰っていった。
スガタはワコを一人で帰らせてしまうことの罪悪感を感じつつ、気を使ってくれたらしいワコに感謝しながらタクトの方に向き直った。


「――タクト」

「……スガタ、気付いてた?」


静かなスガタの声が教室に響き、その声にタクトは恐る恐る顔を上げてスガタの顔色を窺いつつそう問いかけると、スガタは満面の笑みで立っていた。


「お前、バカだろ」

「せめてアホって言ってくれる」


大した差じゃないだろうと思いつつ、スガタはタクトの申し訳なさそうな表情にこれ見よがしに大きく溜め息を吐いた。

「狸寝入りなんて感心しないな」

「う……ごめん」

「いつから起きてたんだ?」


本当に申し訳なさそうなタクトにスガタは責める気力が失せていたが、一応話を訊いてみようと思った。


「ワコに揺さぶられた辺り……かな」

「何でその時すぐ起きなかったんだ」


そのスガタのストレートな質問にタクトは落ち込むように俯くが、少し悩んでから顔を上げた。


「スガタが、」

「――僕が?」


恥ずかしそうに目を逸らして顔を赤く染めているタクトの横顔を見つめながら先を促すようにそう言うと、タクトはちらっとスガタに視線を送りゆっくり話し始めた。


「怒らないか?」

「怒らないし、笑わないから」


そこまで言ってないとタクトは思いつつもおずおずと口を開いた。


「スガタと二人で帰りたいな……って、思って」

本当はすぐ顔を上げてワコとスガタに謝って一緒に帰ろうと思っていたのにスガタの声を聞いた時、欲が出てしまった。
スガタに甘えている自分に恥ずかしさと申し訳なさで胸が一杯だった。


「こんなの我が儘だよな、ごめん」

「…――」


ワコにもスガタにも申し訳なくてタクトは俯いてそう言うが、スガタの反応がないことに疑問に思い恐る恐る顔を上げると手で口を覆ったスガタがタクトを見ていた。

「え、えーっとスガタ?」

「――タクト、」


怒られるか或いは呆れられる位は想像していたタクトはスガタの表情に目を見開いた。


「お前、本当にバカだろ」

「――ば、ばかって言うなよっ!ていうか笑うな」


先程までは何とか堪えていたらしいが、タクトの間の抜けた表情に堪えきれずスガタは彼らしくもなく腹を抱えて笑っていた。
何がそんなにおかしいのかと首を傾げつつもタクトは少しほっとしていた。


「本当、タクトといると飽きないな」

「何だそれ」

「そのままの意味」


不思議に思いながらもスガタに促されてタクトは椅子から立ち上がり鞄に手を伸ばした。

「まあ、この位の我が儘なら可愛いものだってこと」

「……そうか?」

「そんなものだよ」


自分自身許してもらえてほっとしている筈なのにタクトは納得いかないような表情でスガタを見て訊ねてくることにスガタは小さく笑った。


「恋人なら尚更だね」

「え、あ、……」


恋人という単語自体に赤くなっているタクトに初過ぎるのも苦労しそうだとうっすら思いながら微笑んだ。


「とりあえず、ワコに会ったら謝ることだね」

「……了解!」





わがままでもいいよ、君なら







―――――――――

わがままと甘え?






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