▽スガタとミズノ
(スガ→タク前提)




「……君は、」
「あ、スガタくんだよね!」

図書室で調べ物をしよう、と放課後あまり人影のない図書室に入ったスガタは意外な人物と出会った。

――ヨウ・ミズノ、という名前の不思議な少女だ。
夜間飛行に新しく入った部員なのだが、あまり話したことはなかった。双子の姉とは顔は似ているが、表情や雰囲気が全く異なる所為か間違えることはない。
しかし、スガタが気にかかるのはミズノがタクトを好きだということだった。
端から見ても彼女がタクトに惹かれているのは明白で、気付いていないのは張本人であるタクト位のものかもしれない。

「君は勉強してたのかな」
「ううん、絵を描いてたの」

踏み込んでいいものか一瞬悩んだが、スガタはミズノの表情を見てそう問いかけると、何が嬉しいのかは分からないが実に嬉しそうな笑顔で体に隠れて見えていなかったノートをスガタに見せてきた。


「じゃじゃーん!」
「……これ、タクト?」

ミズノが自慢気に見せてきたノートには明るく笑っている少年の絵が描かれていた。特徴をしっかり捉えてあるので、スガタはすぐにその人物が誰かわかった。
当ててもらえたのが嬉しいのか益々太陽のような明るい笑顔は輝いている。自分には真似出来ないだろうそんな彼女の人を和ませる温かな笑顔にスガタは釣られて微笑んだ。

「絵を描くのが好きなんだ?」
「うーん、ちょっと違うかな」

スガタの何気ない質問にミズノは真剣に腕を組み考える。そんなミズノから視線を外して、スガタは自然と渡されたノートを捲っていた。
細かい所まで描いてある絵だ、簡略化されているが一つ一つ丁寧に描かれたその絵は芸術的価値はないだろうが、とても素晴らしいものに見えた。
ただ一つスガタが違和感を持ったのはその絵の中のタクトが全て笑っていたことだった。何故、違和感があるのか分からないが、それだけがスガタには自分の中のタクトと一致しないのだ。

そこまで考えてミズノに見つめられていることに気付いてノートから目を離した。

「多分、タクトくんが好きだからかな」
「――え?」

その言葉の響きに何故かスガタは動揺していた。今更、分かりきっていたことなのにいざ本人の口から直接聞くと複雑な気持ちだった、それは多分――

「絵を描くのも好きなんだけど、やっぱりタクトくんが好きだからだと思うんだ」

好きだから、という言葉に偽りはない。だが、少しスガタの質問とは少しずれた回答にスガタは苦笑いした。

「好きだからずっと見ていたいし、ずっと……」

そこまで言ってミズノは押し黙ってしまう。青い綺麗な瞳にどこか悲しげな色が見えた気がしてスガタは今にも泣いてしまいそうで心配になる。

「……よし、じゃあボク帰るから」
「え、ああ」

ミズノは何かを消し払うように首を振り、急に勢いよく立ち上がった。

「話聞いてくれてありがとう!」
「……大したことしてないよ」

本心だった、謙遜でも何でもなく。だが、いつもの元気な笑顔に戻ったことに少し安心して微笑んだ。

「タクトくんが言ってた通りだね」
「……タクトが?」

「笑顔が綺麗だって、言ってたよ」

そう言った彼女の笑顔の方がスガタにはずっと綺麗に見えた。
ミズノとタクトはどこか似ているのかもしれないとスガタは去っていく彼女の後ろ姿を見送りながら考えていた。天真爛漫で明るくて考えなしのような行動もするが、実は誰よりも人を見ているし、人のことを考えている。
何より、二人とも心の底が読めないと来ている。


「好きだから、か」

スガタの小さな呟きは誰にも聞かれることなく静寂に沈んだ。
ミズノの絵にはタクトの笑顔ばかり描かれていた。自分がその絵に違和感を覚えるのは、きっと彼の笑顔以外の色々な表情を知ってしまったからだ。
そして、いつも笑顔でいることの多いタクトの怒った顔や悲しげな顔を知っていることに密かに優越感を覚えている自分は性格が悪いと言われても言い返せまいとスガタは思う。

しかし、スガタにとってその感情は確かな愛だった。綺麗な笑顔が見たい訳ではない、もっとタクトの弱い部分を見たい、見せて欲しい。
ミズノの絵を思い浮かべて、彼女もそう思っているのだろうか、とうっすら思ってスガタは静かに瞳を閉じた。






絵の中の彼の笑顔







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