★5000hit企画
▽不協和音さまリクエスト
ジョーテツ×タクト(囚われ)
※捏造注意



「おい、何ぼーっとしてんだ」

「いや、何か今見えた気がしたんだが」


綺羅星十字団の無駄に長い総会を終えてジョージはいつも連んでるテツヤと寮に帰る筈だった。
目の端に赤い何かが見えたような気がしてそちらをぼんやり見つめていたジョージをテツヤは怪訝な顔で見ていた。


「さっさと帰らないと明日の朝練やばいんじゃないのか」

「……そうだな」


勉強には不真面目なジョージだったが、ボクシングだけは別だ。特にあの銀河美少年――ツナシ・タクトに負けてからはその練習にも気合いが入っていた。
周りの連中はフェーズの差のせいだと言っていたが、負けたのは事実でそれにどんな訳があれ言い訳はしたくなかったジョージはただひたすらにボクシングに没頭して体を鍛えることしか出来なかった。

「……帰るか」

ジョージは少し先程の一瞬見えた気がした赤い物体気になってはいたが、目の錯覚だと割り切ろうと思っていた矢先のことだった。


「あ、あの……」

「うわっ!」

後ろから突然かけられた小さな声に完全に油断していたらしいテツヤが間抜けな声を上げた。
隣のジョージも何事かと振り向くとそこには学園内でも何度か見たことのある後輩であり宿敵でもある――ツナシ・タクトだった。

印象的でとても目立つ赤い髪を白いシーツのような物を被って隠そうとしていたようだが、逆に赤が際立って見えている。

この人物は確かに銀河美少年と呼ばれ皆が倒そうと躍起になっているツナシ・タクトだ――だが、一体何故こんな所に、そこまで考えてとっさにこんな目立つ所ではまずいと思い、ある一室に引っ張り込んだ。


「おい、何してんだ。こいつは――」

「お前も、来い!」


ジョージの行動に抗議しようとしていたテツヤも無理やり引っ張り込んで扉を閉めた。


「おい、お前本当にどういうつもりだよ」

「………」

テツヤの鋭い詰問にジョージはタクトの腕を掴んだままの状態で何も答えられずにいた。

何故、こんな匿うようなことをしたのか自分自身にもよくわからなかったからだ。とっさの行動だったとしか言いようがなかった。

「あ、あの」

そんなどこかギスギスとした空気に耐えかねたようにタクトが口を開いた。
しかし、何と言えば分からないのか戸惑いがちに目を泳がせていた。


普段の天真爛漫な彼を少しだが知っているジョージはそんなタクトに驚きながらも頭に被っているシーツを外して話しかける。

「何でお前がここにいるんだ」

「それは……」

真剣な表情で訊いてくるジョージの顔は本人が思っている以上に恐ろしさがあるのだが、本人には全く自覚はなかった。勿論、その顔を真っ正面から間近で見ているタクトは完全に萎縮してガチガチになってしまっている。
そんな二人を少し離れた所で見ていたテツヤは呆れるように溜め息を吐きながらジョージの肩に手を置いた。

「お前、顔怖すぎ」

「あ?」

テツヤの言葉に振り返り、タクトに向き直ると確かにタクトの表情が強張っているのを見て言葉に詰まり、気持ちを落ち着けるように一回深呼吸をした。


「で、何でここにいるんだ」

「お前、俺の台詞取るなよっ!」

ジョージが深呼吸している間にテツヤがタクトに改めて質問しているのを見て、ジョージはすごい形相で怒鳴るが、テツヤは大袈裟なと言わんばかりの表情で見てくる。
そんな二人のどこかおかしなやりとりを静かに見ていたタクトは堪えきれずに思わず笑ってしまう。

「笑うなっての」

「す、すみません……ぷっ」

腹を抱えて本気で笑っているタクトにジョージは怒りながらも久しぶりに少し楽しい気分だった。同じようにテツヤも少し楽しそうに見ていた。


「捕まってた、って誰にだよ」

「……それは、分からないんですけど」


タクトの話によると何者かに捕らえられて気付いたらここにいたというのだ。

「捕まってたのに、よくここまで逃げられたな」

というテツヤの素朴な疑問にタクトも不思議そうな表情でゆっくり話し始めた。

「男の人が出してくれたんですけど」


特徴を訊ねると、タクトはかなり悩んで「変な格好の人」と答えた。その答えに二人は顔を見合わせた。自分達が言うのも何だが、この綺羅星十字団の連中は殆ど妙な格好だ――つまり、誰か分からないということだ。


「とりあえず、ここからバレないように出たいってことか」

「……はい」

テツヤの確認するような言葉にタクトは少し困ったような申し訳なさそうな微妙な表情で頷いた。

「じゃあ、これ付けろ」

「これ……」


手渡された物は彼らが着けているのと同じデザインの仮面だった。服はどうしようもないので隠すようにシーツを羽織った。
タクトはこれは逆に目立ちそうな気がすると思っているとジョージもそう思ったのか何か考え込んでいる。

「……よし」

ジョージは何を考えついたのか分からないが、一人納得してタクトの前にしゃがみ込んで背中を向けた。

「え、え?」

「いいからさっさと乗れ」

ジョージの行動にタクトが戸惑っているのを見て、テツヤは彼の考えを察して少しどうかとも思ったが、仕方ないかと思いタクトを促した。

「体調悪いってことにして背負ってシーツ被っとけばそこまで目立たねえだろ」

「そうだな、」


テツヤは多分という不吉な言葉はタクトを不安にさせない為言わなかったが、しかし無茶苦茶な作戦だ。

だが、テツヤももうやるしかあるまいと腹を括っていた。


「すみません」

「大人しくしてろ」

言葉に従い、ジョージに背負ってもらったものの申し訳ないと思っているのか遠慮がちに体重をかけるタクトに体調悪いっていう設定なんだからもっと体重かけてぐったりしてろ、と注意した。


扉を出て三人は慎重に歩き出す。シーツを羽織ったタクトを背負ったジョージの前をテツヤが歩いてなるべくタクトが見えないようにした。

人通りはあまりないことにホッとしながらもう少しで出口という所で声を掛けられた。

「あら、スカーレットキスが一緒じゃないなんて珍しいわね」
おとな銀行代表の頭取だった。いつも一緒に行動しているスカーレットキスことベニオがいないことに不思議そうに問いかけてきた。


「別にいつも一緒な訳じゃないんでね」

「あら、そうかしら」

そうテツヤが返すと頭取はそう言いながらジョージの背負っている人物に目を向けて誰にも見えないようにふっと笑って、すぐ興味をなくしたようにヒールの音をさせながら去っていった。

残された三人はよく分からないながらも安堵して逃げ出した。


「銀河美少年、か」

「奥様、どうかいたしましたか」

シモーヌの問いに何でもないと答え、楽しそうに微笑んだ。


*****

「――どうなるかと思ったぞ」

ジョージの本気で焦った声と共に三人はその場に座り込んだ。タクトは仮面を外し、溜め息を吐いた。

「あの、ありがとうございました」

「お、おう」


タクトの素直な感謝の言葉がどことなく恥ずかしくてジョージは誤魔化すようにぶっきらぼうに返した。そんなジョージの分かりやすい反応にテツヤとタクトは顔を見合わせて笑った。


「でも、何で俺達に声かけたんだ」

そうテツヤが今までずっと疑問だったことを口にした。俺達は一度戦ったこともある上、敵同士である。そんな自分達に何故この少年は声をかけて、助けを求めたのか。
そんな二人の疑問に満ちた視線を受けてもタクトは逆に不思議そうに小首を傾げている。


「何となく、先輩方なら大丈夫な気がして」

当然だと言わんばかりに堂々としたタクトの言い分に二人は思わず間抜けな表情になってしまう。
だが、目の前の少年は特に気にした様子もなかった。


「何となく、ってもし俺達が助けなかったらどうしてたんだよ」

ジョージがまるで心配しているような言葉でタクトに迫るが、

「でも、大丈夫だったじゃないですか」

「……お前、そういうの結果オーライって言うの知ってるか」

それとも、終わり良ければ全て良しかとテツヤが呆れながら言うとタクトはああと感心したように頷いた。
つまり、結果論だ。テツヤはそんなんでいいのか銀河美少年と思いながら溜め息を吐いた。

何だか真剣に考えていたのが馬鹿みたいで緊張の糸も途切れていた三人は夜中に笑いあった。


「じゃあ、ありがとうございました!」

「ああ」


そう言ってまるで一緒に遊んだ帰りの別れのような気軽さにやっぱり不思議な奴だと二人は思っていた。
あんな危ない遊びは懲り懲りだという気持ちと、またこの三人で笑って話せたらという気持ちが心のどこかでしっかり居座っていた。


「……帰る、か」

「ああ」

複雑な表情で顔を見合わせた二人はどちらからともなく歩き出した。

そして、二人は同じ複雑な思いを抱えて押し黙った。





―――――――――
あとがき

不協和音さまへ
⇒リクエストありがとうございました、遅くなってすみません。
ジョーテツ二人とタクトの絡み難しかったですが、楽しかったです。
タクトの囚われ要素少なめで、多分逃がしてくれたのはカタシロさんです。


では、ありがとうございました!





人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -