★5000hit企画 ▽匿名の方からのリクエスト ▽スガタク♀双子 ※女体化注意 「タクト」 同じクラスの男子に話し掛けられていたタクトに後ろから声をかけると、すぐに嬉しそうに笑って振り向いてくるタクトを見て、スガタは嬉しさが込み上げてくるのを感じた。 性格が悪いと言われるだろうが、話していた男子の少し悔しそうな表情に勝ち誇ったような気持ちだった。 タクトは誰にだって分け隔てなく接するが、こんな笑顔を見せるのは自分だけだという自信があった。 「何、スガタ?」 「今日部活休みだって」 いつもは部活の日なのだが、急遽休みになったということで部長であるサリナから連絡が来たことを伝えるとタクトは少し驚いたような顔をするが、すぐにありがとうと礼を言って先程話していた男子に向き直ろうとした。 すぐに自分から意識を逸らされるのが何故か気に入らなくてとっさにタクトの細く薄い肩を掴んでいた。 「え、どうかした?スガタ」 「……今日、一緒に帰らないか」 突然の誘いにタクトは大きな瞳を何回か瞬かせてから少し考えてスガタの瞳を見て何かを決意したように一瞬真面目な顔をした。 「……うん、いいよ」 先程の表情はなかったかのようにいつもと変わらぬ明るい笑顔でスガタにそう返事をした。 その笑顔がいつもスガタを悩ませる。 その笑顔を見る度にただの友人の一人だと線を引かれているように感じるのだ。当たり障りのない穏やかな笑顔、これ以上関わることを拒んでいるかのようだった。 しかし、ふとした時に心の底から嬉しそうな笑顔を見せる。そんな彼女の笑顔にスガタの淡い恋心のようなものはいつも揺さぶられてばかりだった。 それでも、その彼女の笑顔が好きでずっと見ていたいと思っていた ******* 「うわぁ、綺麗だな!」 「大袈裟だな」 青い海を見てタクトは本当に感動したようにそう呟いた。 スガタにとっては見慣れた海だ、見飽きたと言ってもいいかもしれない。しかし、感動した声をあげるタクトに笑いながら言った言葉とは反対に、不思議とスガタもそのいつもと変わらない筈の海を見て綺麗だと思っていた。 青い海と赤い夕焼け空が、とても美しいと思った。 そして、それを見つめるタクトの整った横顔を見つめてやっぱり綺麗だと静かに思った。 「この島に来てもう海は見慣れたと思ってたけど、……やっぱり綺麗だよね」 そう言いながらスカートから伸びた細く白い脚を所在なさげに揺らしていた。そんなタクトの隣に並び、自分より低い位置にある赤い髪が風に靡いているのをスガタは見つめていた。 「ああ、綺麗だな」 「やっぱりこの島に来て良かった!」 タクトはスガタの心からの同意の言葉が嬉しくて、スガタの顔を見上げて微笑んだ。 スガタはこの二人でいる時の自然で温かい雰囲気が好きだった。 大した話をする訳でもなくただ流れていく時間が、タクトと話している時の他の誰と話す時とも違う不思議な空気が好きだった。 「――スガタやワコに出会って、多分今の僕は幸せなんだと思う」 「タクト……?」 青く広大な海を静かでどこか諦めたような悲しい瞳で見つめながらそう話すタクトにスガタは不安を感じる。 どうかしたのかと訊ねるが、タクトはスガタの必死な表情を見て少し目を見開くが、 「大したことじゃないよ」 とだけ言って、微笑んだ。 微笑んでいる筈なのに今にも泣きそうで、泣きたいのを堪えて笑っているように見えてスガタは唇を噛んだ。 そんなタクトを見るのが辛くてスガタは彼女の腕を掴んで強く抱き寄せた。 「そんな顔で笑うな、」 「……スガタ?」 スガタに抱きしめられていることに戸惑い、タクトは問いかけるように名前を呼んだ。すると、スガタは更に強く離さないとでも言わんばかりに抱きしめた。 痛いよ、というタクトの言葉に少し力を弱め、やっとお互いの顔が見えた。タクトは珍しいスガタのそんな必死な様子に驚いていたが、目が合った途端妙な緊張が緩んで二人で笑ってしまった。 そして、スガタは笑っているタクトを見て静かに話し始めた。 「――僕はタクトを幸せにしたい、って思ってるよ」 「……もうとっくに幸せだよ、これ以上なんて我が儘言えない」 そう苦笑いしながら言ってスガタから逃れるように目を逸らすタクトにスガタは強く言い放った。 「タクトのことが、好きだ」 「…――」 タクトはスガタの告白に大きく目を見開いて言葉を失った。その瞳は悲しさと嬉しさが入り混じっているように見えた。どうしたらいいのかわからない子供のような頼りない表情だった。 「……うん、ずっと友達だよ」 「逃げるなよ、タクト」 明らかに分かっているのに惚けるように告げられた返事にスガタは静かだが、威圧感のある言い方でそう言った。だが、タクトはそんなスガタに怯えることもなくただ目を逸らした。 それが気に入らなかった――自分の恋心をまるでなかったことのように扱い、目を逸らす態度が。別に断られるのなら悲しいが諦められる、しかしこの感情自体を全否定されるのだけはどうしても許せなかった。 「――タクト」 こちらを見ないように背けられた視線を自分に向けさせたくて、華奢な肩を掴んでその勢いのまま柔らかそうな唇を奪った。 そんなに長い時間ではなかったと思う。ただ、ずっと触れたかったその小さな唇にらしくもなくがっついてしまった自覚はあった。抵抗されるだろうと思った、同意もなく無理矢理唇を奪ったということは決して否定出来ないことであるし、抵抗されても仕方ないようなことをした。 しかし、目の前の少女はただスガタに身を任せていた。勿論スガタもそれに気付き、流石に不思議に思い体を開放した。 そして、タクトの表情が見えた瞬間スガタは息を飲んだ。 「――タクト、」 何で、という言葉は音にならずに消えてしまった。 「……ご、めん」 そう謝るタクトの頬には涙が流れていた。大きな瞳からぽろぽろと溢れる涙は綺麗だが、とても悲しかった。 「……っ!何で、謝るんだ、謝らなきゃいけないのは――」 僕の筈だ、と言おうとしたスガタを止めるようにタクトは首を横に振った。 「スガタの気持ち分かってたのに、酷いことした」 またごめんと言ってタクトは謝ってスガタを大きな瞳で真っ直ぐ見つめた。 「スガタに幸せになってほしいんだ」 「……それは、」 スガタは言葉に詰まり何も言えなかった。言いたいことはたくさんあるのに話しているタクトの表情を見ると何も言えなくなってしまう。 全てを諦めているような、苦しんでいるような不思議な感情をない交ぜにした表情だった。 「だから、僕と付き合って恋人同士になんて……そんなの」 望んじゃいけない、そう言ってスガタの想いを全否定するのにタクトは全否定されているスガタよりもずっと辛そうな表情をしていた。 そんな矛盾にスガタは何故という気持ちで一杯だった。だが、言えなかった――これ以上何か言ったらタクトが必死で築いた何かが崩れてしまいそうな程に今のタクトは儚く脆く見えた。 「ごめん、スガタ」 その言葉はまるでタクト自身にも向けられているようだった。その時にはスガタも気付いていた、タクトが想いを抑えて、隠そうとしていることに。 「――ありがとう、タクト」 スガタの感謝の言葉に驚いてタクトは目を見開いて瞬きを繰り返した。 そして、いつもと変わらねように、何もなかったかのように二人は笑った。 そして、スガタは感謝の言葉と心の中で彼女に小さく謝った。 スガタにはこれが失恋と言っていいのかもわからない。そんな不思議な恋だった。 タクトは何度も心の中でスガタと自分自身の心に謝った。 嘘をついてごめん 確かにそこにあった想いをなかったことにしてしまった罪悪感に押し潰されそうだった。 でも、タクトは知っていた。知っていたからこそこの想いに正直になることはあってはならないことだった。 「――ごめん、」 愛してる 砂浜で一人立ち尽くしたまま、彼に伝えたかった言葉を青い綺麗な海に静かに呟いた 恋が死んだ日 ――――――――― あとがき リクエストありがとうございました。 双子設定生かしきれなくてすみません…もう少し明るい話の筈だったんですが。 この設定なら悲恋あり、ですかね(´・ω・`) では、ありがとうございました。 |