▽スガタク
(上級生→タクト?)



「おーい、タクト」
「ん、どうかした?」

授業が終わり、帰り支度をしていたタクトに声をかけてきたのはヒロシだった。

「先輩がお前のこと呼んでんぞ」
「え、誰?」

タクトの疑問にヒロシもわからないらしく肩を竦めてさあと言った。
知り合いで先輩となるとかなり限られてくるが、思い浮かべた上級生はヒロシも知っている筈だからそれはないだろう、とすると益々分からなかった。

とりあえず、待たせるのも悪いので会ってみるかと思い立ち上がってヒロシに礼を言って出口へと足を運んだ。



******

「あれ、タクトくんは?」

ワコとスガタは部活に誘おうとタクトの席に向かったが、当の本人がいなかった。
スガタは鞄が置いてあるので校内にはいるようだと思いながら周囲を見渡した。

すると、近くで友人達と話していたらしいヒロシが二人がタクトを探していることに気付いたのか声をかけてきた。

「タクトなら先輩に呼ばれて出て行ったけど」
「――先輩って部長?」

最初に浮かんだ上級生を呟くと、ヒロシは違う違うと否定する。

「よく知らない先輩だったから。それに男だったし」

そのヒロシの言葉に二人は更に疑問に思った。
「……大丈夫かな、タクトくん」
「――…」

ワコの心配そうな声にスガタも少し考えるように押し黙った。
タクトは誰にでも明るく接するのであっという間に人気者になったが、余所者を気に入らないという輩がいるのも確かなので二人はタクトが見知らぬ上級生に呼び出されたという言葉に不安を覚える。

「私、タクトくん探してくる」
「いや、ワコは先に部室に行っててくれないか」

焦った表情でそう言ったワコにスガタは冷静な面持ちでそう言い放った。
ワコはその言葉に何故と言わんばかりの眼差しでスガタを見つめた。そんなワコに落ち着きを促すように微笑んで説明し始める。


「先にタクトが部室に行っててすれ違いになっても困るし」
「でも……」

「それに、もしタクトを見つけても助けられないかもしれない」

スガタのはっきりとした言い分に反論する余地はなく、ワコは自分の力不足と判断力の低さを責められているように思えてごめんと小さく呟いた。

そんな落ち込んだワコを見て、言い過ぎてしまっただろうかと一瞬思いスガタが動揺した時だった。

「――分かった!じゃあ、救出は王子様に任せるとしよう」

頑張ってね、スガタくんという言葉と共に背中を強く叩かれ後押しされる。ワコの納得しきった笑顔に戸惑いながらも少し安心して、行ってくると言い残して足を踏み出した。


******
「あ、あのー」
「――何?」

タクトは戸惑っていた。

廊下を出てすぐの場所で壁に寄りかかって笑顔で立っていた人物に親しげに声を掛けられたと思ったら、そのまま肩を抱かれるように強引に連れ出されてしまった。


――部活あるし、困ったな……


そんなに時間は掛からないだろうと思っていたタクトはゆっくり歩きながら楽しげに話し掛けてくる上級生に困っていた。

大体タクトは彼を知らない。全く知らない人物なのだが、妙に馴れ馴れしくスキンシップが多いことにも少し辟易していた。

一方的に続く会話にぼんやりしながらもタクトはやっと話し掛けてみる。


「これからどこに行くんですか?」

上級生を見た時、体育会系に見えたのでこれはもしや部活の勧誘なのだろうかと思っていたタクトはどこかの部室に連れて行かれると思ったのだが、今までの道のりから察するに違うようだった。


上級生は戸惑っているタクトに気付いたのか、ニヤニヤと嫌な笑みを浮かべている。
タクトはその笑顔に嫌悪感が走り、早く用事が終わることを密かに願った。

そして、辿り着いたのは人気の無い教室だった。
その教室はあまり使われていないのか少し埃っぽさがあり、既に目の前の上級生の所為で気分が悪かったのが、タクトは更に強い嫌悪感に包まれていくのを感じた。


「――あの、先輩?」

そう言って上級生を見上げると嫌な笑顔で見つめてきた。
その笑顔が少し恐ろしく感じてタクトは思わず後退りする。そして、そのまま壁際に追い詰められてしまった。


「俺さ、お前のこと好きなんだよ」

「――え?」


息がかかりそうな程近くに顔があることが嫌で仕方なかったが、それよりも上級生のその言葉に目を見開いた。

「だから、付き合ってくれるかなって」
「……何言ってるんですか」

冗談きついですよと茶化すように言ってみるが、それにも退く様子はなく尚も言い募る。

「試しに付き合ってみるだけでもいいよ、」
「だから――」

「男同士っていうのが嫌なら諦めるけど」


タクトにはその言葉が重く響いた。
誰にも教えていないが、スガタと恋人同士である自分には同性での交際を否定は出来なかった。
それは自分自身も否定していることになるような気がしたからだ。

そんなタクトの表情を見て何を勘違いしたのか上級生は耳元に囁いた。

「そう言えば金に困ってるって聞いたけど」

「金払えば付き合ってくれたりする?」


あまりに酷いその物言いにタクトは怒りに赤くなりながら自分より高い位置にある顔を強く睨みつけた。

しかし、男は全く気にする様子もなくそういう顔されるともっと苛めたくなると厭らしい笑みを浮かべながら言い放つ。

「いい加減にっ――」
タクトが耐えきれず突き飛ばそうとした時だった。

「何してるんですか、先輩」

扉の開く音と共に現れたのは――副部長を連れたスガタだった。

「スガタ!」

驚いたがそれよりも安心している自分に気付いた。スガタが居れば大丈夫だと不思議とそう感じてしまう。

「それでこんな所で何をしてたんですか?」
「…――っ」

スガタの静かだが、責めるような低い声の威圧感に明らかに焦っているのが分かった。

そして、これ以上関わるのは面倒だと判断したのか何も言わず上級生はその場を立ち去った。


「……タクト?」

暫くしても動かずその場に座り込んでいるタクトにスガタは不安になり、声をかけるが赤い頭はただ俯いている。

「――怖かったのか?」
「僕は女の子じゃないし、別に怖くなかったよ」

と肩を竦めて笑うタクトがスガタには無理しているようにしか見えなかった。


「スガタ、ありがとう。心配してくれたんだろ」
「当たり前だろ、バカ」

コツンと額を叩くといつものような笑顔で笑うタクトにスガタは少し安心した。

「でも、よくここにいるって分かったな」
「それは、ほら」


そう言って指差された先にはタクトの足元で楽しそうに走り回っている副部長がいた。


「そっか、副部長もありがとな」

そう言って抱き上げると副部長も嬉しそうに鳴いてタクトの肩に飛び乗った。
いつもと変わらぬ光景に嬉しさが込み上げてきた。そして、ずっとスガタとこうして笑っていたいと思った。

「みんな待ってる、行こう」

そう言いながら差し出された手を握りしめた




きみの手を離さないようにしよう



―――――――――

何が書きたかったのか……




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