「ど、どうしたの?その格好…」 演劇部で談笑していたワコは部室に入ってきたタクトに思わず驚きの声を上げた。 「いやぁー、ちょっと先輩方に目を付けられちゃったみたいで」 「だ、大丈夫なの?」 服装の乱れたタクトに怪我はないかと近付こうとするが、ワコが立ち上がる前に部長であるサリナの方に向き遅くなったことを謝っていた。 「別にそんなに厳しい部活じゃないから気にしないで」 そんなサリナの一言でホッとしたのか少し曇っていた表情が明るくなる。 「それより怪我、してるみたいだけど」 サリナの言葉に同意するようにワコも心配そうな表情を覗かせた。 「いや、本当に大したことじゃないんで大丈夫ですよ!元気印のタクトくんですよ」 そう言っていつものように太陽のような笑顔を見せるタクトの様子に安心したワコは胸をなで下ろした。 「心配し過ぎだって!本当に大したことないしさ」 「だってタクトくんって結構危なっかしいていうか、何というか」 いつものように笑いが部室におきてワコは一瞬タクトが入ってきた時の胸のざわめきを気のせいだったのかと思い、微笑んだ。 そんな和んだ空気の中再び部室の扉が静かに音を立てた。 「すみません、部長。日直の仕事で遅れました」 「ワコから聞いてたから大丈夫よ」 本来2人でやる筈の日直が丁度今日に限って相手が休みだった為、どうやら思っていた以上に時間がかかってしまい珍しく焦ってきたスガタにおっとりとサリナは微笑んだ。 「疲れたでしょう、お茶でも飲む?」 「いえ、ありがとうございます。そういえばその格好は……」 少し落ち着きふと見るとワコと話しているタクトの様子がおかしいことに気付き声をかける。 「あ、いやこれはちょっと……」 先程2人に話した時と同じように話そうとしたが、何故か上手く言葉が出て来ずにタクト自身戸惑っていた。 「……足、怪我してるな」 「え?」 ワコの驚きの声を無視するようにスガタはタクトの手を掴んだ。 「手は怪我してないみたいだな…」 「え、えーと」 スガタはタクト自身も戸惑っているが気にする様子もなく、サリナに向かって声をかける。 「保健室に連れて行ってきます。もしかしたら捻挫かもしれないので」 そう言った後、タクトに肩を貸してゆっくり歩き、部室を後にした。 「それにしても彼の大丈夫はわからないわね」 「あんな笑顔で大丈夫なんて言ってたのに」 そう言って申し訳なさそうに呟くワコにサリナは優しく笑いかけた。 「あんなの気付く方が異常なんだからワコが気にすることじゃないよ」 「え?」 「何でもない。ただあの二人は不思議たなあってだけ」 肩を貸してもらっていることに申し訳なさそうにしているタクトに気付きながらも今はとりあえず彼を保健室に連れて行くことを優先するべきだと判断したスガタは気付かないふりをしてひたすら歩き続けていた。 「あ、あのさ」 「なに?」 タクトの気まずそうな声に反応すると 「一応歩けそうだし、一人で大丈夫だからさ、あの…」 「一人で保健室に行くって?」 タクトの中でのスガタは未だに掴めない人物ではあったが、唯一言えることは割と他人に対しての関心が淡白であるということだった。彼は人間関係こそ広いが、殆どの人と浅く当たり障りのない関係を築いているようだった。 深く関わり、世話を焼く人物なんてそれこそ限られておりそんな人物はタクトが知る限りはワコ位のものではないかとすら思っていた。それと同時に自分がそのスガタの中で深く関わりたいと思わせる人間には入っていないであろうということもわかっていた。だからこそ少し突き放す言動をすれば、大丈夫だと油断していた。 「いいから、早く保健室に行こう」 「え?」 予想外な言葉に動揺するタクトを見てスガタは 「本気で嫌がるようなら抱き上げて連れて行ってもいいけど?」 というスガタの思いもよらぬ発言に更に動揺するタクトの様子を見て楽しそうに笑った。 「思い通りになると思ったら大間違いだよ」 というスガタの笑顔と共に告げられた言葉でタクトは自分がとんでもない勘違いをしていたことに気付き呆然とした。 彼は自分が思っていた以上に興味深く底の見えない人物だった 「ははっ、本当にここは面白い人ばっかりだ」 「当然だろ」 「改めてよろしく」 end タクトとスガタはもっと話すべき |