★5000hit企画
▽ユウ様リクエスト
スガタクヘド三つ巴でタクト猫化(半獣)パロ
※若干ギャグ



僕はその日不思議な生き物に出会った。

―――そしてこれが、僕の新しい人生の始まりだったのかもしれない



「スガター」
「……」

何故拾って来てしまったのか、そんな疑問だけがぐるぐると僕の脳内を駆け巡っていた。
今、目の前でのんびりと寛いでいる少年は明らかに妙だった。
見た目は目立つ赤い髪と男にしては可愛らしい顔立ちで女性受けも良さそうだと少し冷静に観察してみる。だが、何より彼を目立たせているのはその頭にある猫の耳と、優雅にふよふよと動いている長い尻尾だった。

(やっぱり猫耳、だな)

耳だけでなく尻尾も見るに猫の物で間違いないらしい。だが、一体これはどういうことなのか。
しかし、それ以上に何故自分は彼を拾って来たのだろうか。
「スガター?」
「―――そう言えば何で名前を」
「覚えてないんだ?」

無邪気に名前を呼んでくることに疑問の声を上げると目の前の生き物は今までの楽しそうな表情を一変して寂しそうにしている。
表情のコロコロ変わる様子はまさに天真爛漫といった感じで微笑ましいが、僕は少し可愛いなんて思っている自分を否定するように脳内からそんな考えを必死に振り捨てた。
これは謎の生き物であり、決して可愛い小動物とかそんな物ではないのだと自分に言い聞かせた。

「――僕はお前と会ったこともないし、全く知らないんだが」
「お前じゃなくて、タクト!」
「……」

さっきまで寂しそうな表情をしていた生き物――タクトはお前という呼び方が気に入らないのかすぐに訂正を入れるように飛び付いてくる。

「で、タクトは一体……」
「おなかへったな、スガタ」
「それは何か食べ物を寄越せという催促か?」

皮肉を込めた僕の言葉に動じることなく笑顔で頷いたタクトにただの天真爛漫なお子様ではないのかもしれないなと思った。

とりあえず仕方ないのでジャガー達に食事の準備を頼み一段落ついて静かに溜め息を吐いた。


*****

「おいしかった、ごちそうさま」
「――で、タクトお前は」

丁寧に両手を合わせているタクトに再び話を訊こうとするが、ずっと目を輝かせて見つめていたジャガーが堪えきれずに上げた黄色い声により遮断される。

流石にここは怒ってもいいのではないかと思い、二人に目をやった。

「きゃあぁ、これ本物!可愛いぃいい」
「あ、あの……」

タクトもここまで盛大な反応をされたのは初めてなのか戸惑っているようだ。耳を伏せて困ったような顔でこちらをチラチラと助けを求めるように見てくる。

このまま放置するのは哀れに思えたので一応助け舟を出してやる。

「そこまでにしておきなよ、困ってるし」
「うっ、……はい」

流石に逆らう気はなかったらしく少し残念そうではあるが、今にも耳に触ろうと伸ばしていた手を引っ込めた。それにタクトはホッと肩を撫で下ろした。

「で、話してくれるか?」

タクトについて自分は知らないことだらけだが、それでも僕がいつの間にか彼に惹かれていることに気付いてしまった。まあ、初めて見た時から好きだったのかもしれないなと今更考える。

タクトは真剣な眼差しに気付いて一瞬何か考えるように俯いたが、すぐに真っ直ぐ前を向いてゆっくりと話し始めた。


「―――実は」



「逃げてきた、のか?」
「ちょっと違うけどまあ、大体そんな感じ」

タクトの話の突拍子の無さに呆然としながらも彼の目を見る限り嘘ではないのはすぐに分かってしまった。

「鳥籠みたいなのにいたんだけどさ」
「――鳥籠!?」

どんなプレイだとか下世話なことを一瞬考えてしまったのはこの際許して欲しい、そういうお年頃なんだ。
大体何で鳥籠なんだと思うのは至って普通だと思う。

「でも、よく出られたな」
「案外簡単に出られて僕も驚いたんだけどね」

あははと呑気に笑っているタクトに苦笑いして今まで脱走を考えたりはしなかったのかとぼんやり考えていた。


「でも、何で急に出ようと思ったんだ」

自分でそう言いながら変な質問だと思った。多分心のどこかでその鳥籠に彼を入れた人物をタクトが好きだったのかもしれないと思っていた。そして、そんな想像をタクトに打ち壊して欲しいという思いで頭が一杯だった。


「――スガタに会いたかったからだよ」
「――…え?」

タクトの小さな唇から放たれた言葉に思い悩み俯いていた顔を上げてタクトの顔を見つめた。

今、タクトは何て言っただろうか。ぼんやりし始めた頭の中を色々な考えが駆け巡っていた。


「――タクト、僕は」
「それに鳥籠生活にも流石に飽きてたしな!」

僕の伝えようとした言葉なんて気にも止めることなくタクトはそう言ってとても爽やかに笑った。それはまるで憑き物が落ちたかのようだった。そんなに嫌だったのかと思うと伝えられなかった言葉のことは忘れて自然と嬉しさやら勝ち誇ったような気持ちが湧いてくるのを感じた。

しかし、タクトの言葉を冷静になって振り返ると妙な部分があることに僕はやっと気付いてしまった。

「何で僕のことを知ってるんだ」

一回疑問に思っていた筈がすっかり忘れていた問いを繰り返してみる。

「――やっぱり覚えてなかったか」

小さく聞こえるか聞こえないか微妙な程のタクトの呟きだったが、しっかり聞いていた僕は益々不思議に思う。

昔、会ったことがあるのか――?

脳内を探してみるが、どう頑張っても出てくることはなかった。大体こんな猫耳や尻尾が生えた人間なのかもよく分からない生き物と会ったことがあれば恐らく忘れられない筈だ、余程のことがない限りは。


「つまり、タクトは――」

そこまで言った時だった、急に大きな音を立てて扉が開いたのは。

「扉は静かに――」
「タクトくん!」

ジャガーかと思い、注意しようとしたがその場にいたのは見たことのない紫色の髪の男性だった。

名前を呼ばれたタクトは三角の耳が音に反応して立ち上がった。そして、すぐに音のした方向へ目をやると驚いたような表情で椅子から飛び上がった。長く優雅に動いていた尻尾も緊張しているように見える。


「お客様、困ります!勝手に入られては」

慌てて男の後を付いてきたジャガーはそう言い募るが、男は気に留める様子もなく静かにタクトに近付いていく。

それをすぐに止めるべきか一瞬迷った。彼がどういう人物か分からなかったからだ。

「帰ってきてくれないか、タクトくん」
「……嫌です」

タクトは少し怯えているのかと思ったが、そうでもなかったらしく淡々とした声で返した。尻尾は不機嫌そうに揺れていたので不機嫌なのはよく分かった。


「――君がいなくなって後悔した」

男は本当に辛そうに俯きながらそう言うとタクトの肩を掴みこう言った。


「もう鳥籠に入れたり、首輪付けたりしないから!」

だから、帰ってきてくれという力強い訴えが静かな室内に虚しく響いた。

「――ただの変態じゃないか」
「変態、ですね」

忌々しいと言わんばかりの呟きに同意するようにジャガーも口の端を引きつらせながらそういった。
何だか女房に逃げられた駄目亭主のようだともうっすら思いもしたが、それを言うのは少し癪だったので心の中に留めておいた。

「言いたいことはそれだけか」

僕がそう言い放つと男はその言葉に驚きながらもタクトの反応が気になるらしくチラチラと見ている。

「――スガタの家に住む」
「……え?」

今まで黙っていたタクトの発した言葉に男と同じように僕まで驚いてタクトの方に顔を向ける。

「彼が、好きなのか……?」

僕が一番気になっていたことを男は有り得ないとでも言いたげな顔で言い放った。少しイラッとしたが、まあとりあえずタクトの答えを聞かなければいけないから落ち着けと自分に言い聞かせた。


「――好きだよ」

「な、タクト!」


あっさりと男に向かって告げられた言葉に僕は思わず声を出していた。そして、完全に茫然自失といった様子の男に勝ち誇ったような顔を見せる。隣で見ていたジャガーが少し引いていたが、気にしない。

「タクト、」

「――スガタの家が、好きなんだ」
「……は?」

キラキラと輝く瞳で本当に嬉しそうにそう言うタクトの感情で連動するように猫耳と尻尾も動いていた。
それは実に愛らしい光景だ。しかし、問題はタクトの発言だ。

「なるほど、猫は家に住むって言いますしね」
「ああ、そういうことか」

ジャガーの思い出したように放たれた言葉に納得したように相槌を打って更に虚しさが増した。
つまり彼は、僕が好きだからここにいたい訳ではなくこの家を気に入ったからいたいと――そこまで考えて黄昏るように遠くを見つめた。

ああ、見た目こそ半分人間のようだから忘れてたけど、猫なんだと遠い意識の中考えていた。


そして、そんな二人を見ていた男が何か考えるように黙っていたが、何を思い付いたのかパッと顔を上げた。

「それなら、ここに住めばいいんだ」

何言ってるんだ、こいつというのが率直な感想だ。
少なからずショックを受けていた自分からすればこの変態を構う気力はなかった。

「タクトくん、ここが新しい愛の巣ってことでいいかな」
「――ちょっと待て、全然良くない」

愛の巣ってなんだよ。人の家で何をするつもりだ、変態そんな罵りは流石に口にはしなかったが、機嫌は良くはなかった。
まあ、僕はそんなの許さないし、タクトも了承する訳もない。

「じゃあ、これからよろしくね」
「……よろしく?」

ちょっと待てという僕の言葉は見事に無視され、男は楽しそうにタクトの頭を撫でている。
しかし、ここまで人の話を聞かないとは……


「ヘッド、またよろしく」
「また仲良くしようね、タクトくん」

そして、タクトは何故平然と受け入れているのか。やっと分かったことはこの男がヘッドという人間らしいということだけだった。

大体何者なのか、このヘッドという男は。真剣に考えてみても本当にただの変態或いは変質者と呼ばれる人種にしかもう見えなかった。


「素敵じゃないですか!三角関係の三人が一つ屋根の下で暮らすなんて」
「……それでいいのか」


何だかもうこれは決定してしまっているようだ、とぼんやり考えて溜め息を吐いた。

何故こんなことに――そんな思いで一杯だった


「いつまで居座るつもりなんだ」


まさか期限なしの永久同棲とかそんなことは言うまいという精一杯の抵抗の一つとしてヘッドにそう訊ねてみる。


「タクトくんが君の家に飽きるまでかな」
「……」

一々癪な言い方をする男だなと腹立たしく思うが、顔には出さなかった。出してしまえば子供だと馬鹿にされる気がしたからだ。
そして、そんなある意味冷戦状態に陥りかけていた僕達を尻尾の毛並みを整えながら見ていたタクトが一瞬考えるように俯いていた。

俯いてはいるが、尻尾と耳だけは別の生き物のように自分勝手に動いている様子をいつの間にか二人で微笑ましく見つめていた。
冷戦はいつの間にかその赤い可愛らしい生き物によって停戦になっていた。


「――スガタが」


ずっと僕達に見られていたことには気付いていなかったらしいタクトは顔を上げて目が合ったことに少し驚いて伏せていた耳がピンッと立ち上がっていたが、すぐに落ち着いて話し出す。


「思い出したら出てくよ」
「思い出す、って何のことだ」

「それを思い出したらってことだよ」


考えてみたもののやはりさっぱり分からず首を傾げる僕を見て、タクトは何故かとても嬉しそうに笑っていた。

「思い出して欲しいんじゃないのか?」

そう言うとタクトは首を横に振ってまた笑って背中を向けた。

「別に思い出してくれなくてもいいよ」

「それは――」


つまり


僕がそこまで言った時ずっと静かに立ち尽くしていたらしいヘッドが恨みがましい表情で見ていた。恐ろしい冷気を発していた。


「それじゃ、改めてよろしく。スガタ!」
「――ああ、よろしく」

もうこの際どうにでもなれという気持ちだったが、どこかこんな関係も悪くないかと思い、小さく微笑んだ



「じゃあ、よろしく」
「……」


この男が付いて来なければ更に良かったという言葉は心に閉まっておくことにする




―――――――――
あとがき

ユウ様リクエストありがとうございました!
ギャグ色が思ったよりも強くなってしまいすみません。特にヘッドが……
若干スガタ有利な戦況になってる気がしますが、一応三つ巴だと…思います。

では、リクエストありがとうございました!



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