▽スガタク♀←ヒロシ
▽女体化、捏造注意




俺は掃除当番だった。
それもよりによってトイレ掃除だ。はっきり言ってサボりたいが、先に相方である男子が帰ってしまったのでここで俺まで帰ると流石にまずいだろうという微かに存在する良心により留まり、律儀に掃除していた。
しかし、少し良い事をした俺に神様がご褒美をくれたらしい。女子トイレの方の掃除当番が彼女――ツナシ・タクトだったのだ。

基本的にトイレ掃除は掃除が終わったら男女一緒に教師に報告しに行かないといけないという決まりがある。つまり、少しだけだがタクトと一緒にいられる、寧ろ話すチャンスがあるかもしれないということだ。

初めて見た時から気になっていた彼女と話せるかもしれないとあれば、当然思春期の男子らしくドキドキしていた。
ドキドキし過ぎた結果とんでもない速さでトイレ掃除を終えてしまい、俺はそわそわしていた。

隣はまだ掃除は終わっていないらしいが、いつ終わるだろうかとか彼女が掃除している様子を想像して妙にドキドキする。これが思春期かと思っていたが、段々緊張してきてしまいふと尿意を感じた。
どうせトイレだしと思い、掃除した後だがまあいいかと用を足し始める。
その時何故かタクトのことを考えていた。ちゃんと二人きりで話したことはないが、タクトのことを考えると異様にドキドキするのだ。やはりこれをきっかけにちょっとでも距離を縮めなければ――そこまで考えていた矢先に心の中で何度となく再生した声が聞こえてきた。


「おーい、そっち終わった?」
「ちょっ、ちょっとタンマ!!」

そんな言葉と共に開けられた扉に慌てて顔をそちらに向けて声を上げたが、既に遅かったとしか言いようがなかった。

扉を開けたタクトと目があったことにこんな状況ながら俺は少し嬉しく思ってはいたが、二人揃って見事に硬直していた。

数秒後脳が再び動き出したのかタクトは顔を真っ赤にして謝りながら扉を閉じた。俺はそんなタクトをがいた扉の方を見たままやっぱり可愛いとボソッと呟いた。



「あ、あの……ごめんな」
「いや、俺の方こそ悪かったよ」

扉から離れた位置で顔を赤くしたまま立ち尽くしていたタクトに声をかけると慌てて再び謝ってくるので、こっちにも落ち度があるので謝った。

暫くすると二人で謝り返している様子が冷静になった途端おかしかったのかタクトは小さく笑った。俺もやっと近くで見れたタクトの笑顔が嬉しくて笑った。

―――――
「ヒロシと二人で話したのってもしかして初めてかな」
「え、ああそう言えばそうだな」

のんびり他愛のないことを話しながら無事二人で教師に報告し終わり、廊下を歩いているとタクトは急に思い付いたようにそう言った。
なるべく変に見えないようにと思い、平静を装いながら答えるとタクトは何か考え込むようにした。

一体どうしたのかと自分より低い位置にある顔を覗き込もうとしたが、その瞬間タクトは顔を上げて上目遣いでこちらを見つめてくる。

「え、えっとどうかしたか?」
「掃除やだなって思ってたけど、頑張って良かったよ」
「――えっ」

タクトの髪と同じ色の瞳は本当に嬉しそうに輝いていて綺麗だった。そんな瞳に見つめられているだけでドキドキしてるというのにタクトは更に距離を縮めるように近付いてきて明るく微笑んだ。

「ヒロシとこうやって話せて楽しかったし」
「……タ、タクト」

小動物のような可愛らしさにクラクラしながらもそんな様子を目に焼き付けようと目を見開いた。
大体本人に他意はないのだろうが、そんな笑顔でそんなこと言われたらその気がなくてもキュンってなるだろうがっという俺の心の叫びは誰にも聞かれることはなかった。

それを言ったら満足したのかタクトはスカートを翻して楽しそうに歩いている。そんなタクトの様子はとても可愛らしいがどこかに行ってしまいそうで何故か不安でもあった。

そんな考えが浮かんだ瞬間思わずタクトの細い手首を掴んでいた。もうそこからは完全に無意識での行動だったとしか言いようがない、実際他に何と言えばいいのか分からないのだ。

「ヒロシ?」
「俺は、タクトのことが――」

心のどこかで何を言ってるんだという制止の声が聞こえた気がした。でも、それ以上に今彼女にこの想いだけでも伝えなくてはという気持ちで胸が一杯だった。

「……タクトのことが」
「何してるんだ?」
「スガタ!」

俺の一世一代の告白という名の特攻は見事にある男により阻止されてしまった。
怒りやがっかりとかそんな気持ちは全くなかった。寧ろ俺は多分怖かった。何が怖いってそれは目の前でタクトと実に穏やかに話しているシンドウ家のお坊ちゃまのオーラだった。

「なかなか部室に来ないからみんな心配してたよ」
「ごめん、ちょっと掃除長引いちゃってさ」

穏やかに続く会話をぼんやりとまるで背景の一つにでもなったような心地になっていた時だった。まるで邪魔な物を見るような目で見られていた。俺はあれ、あいつあんなキャラだったっけとか思いながらもドッと嫌な汗が出てくるのを感じた。タクトと話しながらふと向けられる視線に悪寒が走る。

だが、タクトと話している様子はいつも通り――というか他の人と話す時より更に穏やかで優しく甘ったるい位の雰囲気だった。

「まあ、みんなというよりも僕が心配だったんだけど」
「な、何言って……」

スガタの気障な言葉に初心なタクトは本当に恥ずかしそうに真っ赤になる。俺はそれを見てやっぱり可愛いと思い、心が温かくなるのを感じた。多少現実逃避かもしれないが。

「じゃあ、ヒロシまた明日!」
「ああ、じゃあな」

タクトは少し名残惜しそうな表情で別れを告げた。

寂しく思いながらも明日からはもっと色々話せるだろうかと思うと顔の筋肉が弛むのを感じていた。こんな風に近くで彼女と話すことが出来るなんて思いもしなかった俺にはとんでもないサプライズな一日だった。今日のことは一生忘れないだろうと大袈裟だが、本気でそう思っていた。
そして、あんな目で見てきていたスガタが何も言わずに去っていったことに少し疑問こそあったが、特に気にすることなく幸せな想いに浸った。


―――――
「話すだけで満足出来ればいいけど」
「――何の話?」

部室へ向かいながらふと零したスガタの言葉を聞いたタクトは小首を傾げて訊ねるが、スガタは誤魔化すように何でもないよと笑って言った。

タクトはそんなスガタに腑に落ちないような表情をしつつもまぁいいかと思い直しゆっくり歩き出した。


本気で来るようならいくらでも相手になる気だけど――


前を歩く小さな背中を見つめて、二人の楽しそうな様子を思い出しながら目を細めた。



彼の幸せと不幸せの始まり





――――――――――
あとがき

完全に捏造ですね。
女体化は未だに上手く書けないです。でも好きです




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