★5000hit企画 ▽はつゆりか様リクエスト 囚われタクト(巫女?) 「封印を――」 「気多の巫女に続いてとは、――」 綺羅星十字団の人々の間で最近囁かれている噂があった、それはヘッドが気多の巫女に続いてまた巫女を捕らえたという話だった。 ――しかし、その噂はあくまで噂というのが定説になっている。ヘッドが何も言わない限りこれは噂に過ぎないのだ。 それでも、この噂が絶えないのはそれだけ今現在何も収穫を得られず焦っておりその噂が真実であることを皆密かに望んでいるからだろう。 それでも結局噂の最後を飾る言葉は「まあ噂は噂だ」という諦めたような言葉だった ――――― 「やあ、サカナちゃん。それと――」 「……」 「ご機嫌斜めかな、銀河美少年?」 鳥籠のような場所に入れられた少女と少年に男――ヘッドは実に楽しそうに話しかける。どう見てもこの光景は異常な筈なのにヘッドは楽しそうに笑っていた。 そんなヘッドの様子に益々胸糞悪そうな表情で赤い髪の少年は見つめていた。 「その銀河美少年、って止めてください」 「意外と丁寧に話すね。じゃあ、何て呼ぼうか」 あんなにも敵意を剥き出しな少年が丁寧に話す様子に疑問を口にすると不機嫌そうな顔のまま一応年上は敬わないとと言った彼の嫌々言っていますというのが丸分かりの表情に思わず笑いながらも彼の呼び名を考えた。彼女がサカナちゃんだから彼は何だろうな――とベッドに横たわりながら考えていると思考を遮るように少年が話しかけてきた。 「――タクトでいい」 「タクトくん、か。分かったそう呼ぶことにする」 タクトは本名を素直に言っている自分自身に驚いていたが、ヘッドはお構いなしにタクトに話しかけてくる。タクトの隣で妙に慣れた様子で佇む少女も見つめてきた。 「二人で歌ってくれるかな」 ヘッドの要求にタクトは首を傾げて何を言っているのかと思っていたが、隣の少女が歌い出したので合わせればいいのかなとぼんやりと思っていた。 (知らない曲――の筈だ、なのに何で……) 自然と歌詞は口から出てきてしかしそれが不快という訳ではなく、寧ろ心地よかった。美しいメロディーを紡ぐ二人の姿をヘッドはどこか悲しげな瞳で静かに見つめていた。 そして、世界は回り始めた ――――― 「タクトくん、寮にもいないって……どうしよう」 「…――」 その日、ワコとスガタは昨日まで確かに楽しそうに笑っていた筈のタクトがいないという事実に不安を感じていた。 事の始まりは少しだけ遡る。 ――最初はいつもなら既に登校している時間にいないことにスガタが不思議そうな顔をしていただけだった。 だが、少し遅れて教室に入ってきたワコの青ざめた顔で一気に話は大きく変わっていった。 「――タクトが?」 「何か嫌な予感がするの、タクトくんが……」 それ以上先を言うのを一瞬躊躇したワコを促すようにスガタは真っ直ぐ見つめた。ワコはスガタの瞳を見て決意したように話し始める。 「夢だったんだと思うけど、起きた時すごく嫌な予感がしたの――タクトくんが消えて、しまいそうで」 「……」 ワコは巫女の一人で、特にそういった感覚に優れているとスガタは思っている。以前も予知夢のような物を見た彼女を知っていたからこそこれがただの気の所為で済む問題ではないことはスガタには分かっていた。 ワコも理解をしているからこそ言うのを躊躇していたのだろう。 「今はとりあえず落ち着こう、ワコがそんな顔してたらタクトだって心配する」 「……スガタくん、ありがとう」 スガタもタクトのことが心配だった。ワコのように異常な程に感覚は鋭くはない筈だが、妙な胸騒ぎがした。 ――タクト、無事でいろよ…… ―――― 「君は辛くないの」 「――私?」 タクトは今唯一この場にいる少女に勇気を出して声をかけた。だが、タクトの問いかけに少女は不思議そうに首を傾げた。その少女の首には自分と同じように金色の首輪がついていた。 「辛くはないわ、何故そんなことを?」 「家に帰れないし、友達にも会えない」 タクトはそう言いながら自分の会いたい人達の姿を自然と思い描いていた。 「つまり、あなたは誰か会いたい人がいるのね」 「べ、別にそういう訳じゃ……」 「いいと思うわ、だってそういうお年頃だもの」 「………」 基本的にあまり話を聞かれていない気がすると思いながら、まるで恋に恋する少女のような様子を見ていると微笑ましく思えてつい笑ってしまう。 「やっと、笑った」 「――うわっ」 「そういう驚き方は流石に傷付くな」 何だか少し平穏な日々を思い出して懐かしい気持ちになっていたタクトの気持ちを打ち壊すように唐突に現れたのはヘッドだった。 タクトの顔をまじまじと見つめてから実に楽しそうに笑っているヘッドにさっきまで話していた少女は少し不愉快そうな表情で見ている。 「私がお話していたのに」 「ごめん、ごめん」 タクトは二人のやりとりを見ながらよくわからない関係性だなと漠然と感じていた。 「もう少し君をここに閉じ込めておきたかったんだけどね」 「――?」 ヘッドは一通り笑った後、少し残念そうな表情でタクトを見つめた。タクトは意味が分からず首を傾げるばかりだった。 「君にはもう王子様がいたってことかな」 「何を言って……」 ヘッドにより鳥籠から出され、付けられていた金色の首輪も外された。その時タクトは嬉しさや安堵よりも何故という気持ちの方が大きかった。 ヘッドの瞳を見るとそれは悲しげな色を湛えていた。しかし、理由を訊ねる前にタクトは視界がぼんやりと揺らいでいくのを感じて何とか意識を留まらせようとするが、意識はぐらりと沈んでいった。 「さよなら、ありがとう」 ――タクトくん タクトは沈んでいく意識の隅でヘッドの小さな声が聞こえた気がした ――――― 「――タクト!タクトッ!!」 「……ん、」 タクトは誰かに体を揺さぶられながら聞こえてきた声に少し安心してうっすら目を開いた。 目に入ってきたのは見覚えのある綺麗な青だった。 「ス、ガタ……」 スガタの顔が段々とはっきり見えてきてその時やっと彼が珍しく必死な形相だったことに気付き、少し驚いた。 「心配、した」 「スガタ?」 「――タクト」 ジッとタクトを正面から見つめていたスガタはそう呟いてタクトを力強く抱きしめた。 少し痛かったけれど、きっとそれだけ心配してくれたのだろうと思うともう少し我慢しようと思い、タクトはソッと目を閉じた。 ――――― 「あなた、本当に馬鹿ね」 「サカナちゃんは辛辣だなぁ」 鳥籠の中の少女は細い鎖を手の中で弄びながらヘッドにそう言い放った。少女の淡々とした言葉を聞いてヘッドは困ったようにはしているが、言われたヘッドもそこまで怒った様子はない。 「大切ならちゃんと繋いでおかないと駄目よ」 「――そうだね」 少女はヘッドの気のない返事に少し寂しげな表情で俯いた。そして、自分もいつか――そこまで考えて思考を止めるように瞳を閉じた。 「……本当に馬鹿」 「人間は永遠に愚かな生き物だよ、」 ヘッドは思い出すように天井を見上げ、小さく呟いた。 ――特に恋をしている時は、ね そんな小さな声は鳥籠の少女だけが聞いていた ――――――――― あとがき はつゆりか様リクエストありがとうございました! 大分リクエストからずれてしまい申し訳ない限りです;; まだまだ力不足で本当にすみません。巫女要素より囚われ要素が大きいですね。 では、ありがとうございました。 |