▽スガタク 「タクト?」 「うー……」 タクトはスガタに晩御飯を一緒に食べないかと彼の家に誘われたので二人で歩いていた。いつもならワコがいるのだが、彼女は彼女なりに付き合いがあるようなので誘うのは諦めた。 そして、タクトがこんなに疲れているのには一応理由があった。 「バス……行っちゃった、な」 「まあ、仕方ないな。次のバスを待てばいい」 歩いていたらバスが来たのが見えてとっさに走ったもののとても間に合う距離ではなく、バスは走って行ってしまった。必死で走ったタクトは頑張ったのに乗れなかったショックで更に疲れを感じているらしく肩を落としていた。 そんなタクトと比べるとスガタは少し疲れたなと言って溜め息を一回吐いただけだった。 「スガタ、疲れてないのか?」 「疲れたに決まってるだろ、何言ってるんだ」 冷めた視線を受けたタクトは誤魔化すように顔を歪ませて苦笑いした。それにしたって少し狡いなと思ってしまう。 「子供みたいな顔になってるぞ」 「…――」 少し心を見透かされたようで恥ずかしい気持ちになるが、それを隠すようにバス停のベンチに座ってスガタからそっと顔を逸らした。 スガタの瞳に見られると何故か見透かされているように感じる時がある。まるで、観察でもされているみたいだと思う。 そして、そんなことを考えながらぼんやりしていると視線の先に自販機があることに気付いてちょうど喉も渇いていたし、何より会話の流れを少し変えたかったのでタクトはすぐにそちらに話を移した。 ――――― 「何かジュース買おう、かな……」 分かり易く辿々しいタクトの言葉にスガタはすぐに気付いたが、そこにはそっと目を閉じた。 「スガタも、飲むか?」 「いや、いいよ」 スガタの言葉に明らかに少しがっかりとしたタクトに思わず彼に見えないようにスガタは小さく笑った。 「じゃあ、えーっと……」 そんなスガタの様子には気付いていないらしいタクトはどれにしようかと悩んでいる。そうやって悩んでいるタクトの様子はスガタにはとても新鮮で面白いものに思えた。 「――よしっ!」 やっと決めたタクトは満足げにボタンを押して笑っている。こんな些細な出来事で笑える日が自分にも来るだなんてスガタは今まで思いもしなかった、だからこそ彼の存在に惹かれているのかもしれないと静かに微笑みながらスガタはそう思った。 「あー、おいしいっ!!」 「良かったな」 本当に美味しそうに飲んでいるタクトにスガタはそう言いながら微笑んだ。 いつだってタクトは何でも楽しそうでそれを見ているのが、不思議とスガタは好きだった。 ――今まではそんなこと感じたことはなかった 幸せそうに笑っている人を見たって自分は幸せになれない、そう思っていた。しかし、今は不思議と―― 「スガタ?」 「――何だ?」 タクトの様子を見ながらぼんやりしていたらしくそんなスガタを心配そうに隣のタクトが覗き込んできていた。それに少し驚いてスガタが体を引くと、タクトは首を傾げてそれを見つめながらこう言った。 「あ、スガタも飲むか?」 「え、ああ……」 スガタはタクトの唐突な言葉と共に差し出された缶に戸惑いながらも思わず受け取ってしまい、一瞬どうしようかと悩むがまあ好意だし受け取っておこうと思い直して素直に受け取った。 「ありがとう」 「いえいえー」 スガタの感謝の言葉にどこか惚けた口調でそう返したタクトの頭をぽんっと軽く叩いた。 あまり疲れてはいなかったがそこそこ喉は渇いていたらしいことをスガタは飲み物に口を付けてから気付いた。水分はすぐに吸収されていった。 「これ、おいしいだろっ!!」 タクトは同意を求めるように笑いながらそう言った。その笑顔を見てやっぱり子供みたいだと思ってスガタもつられるように笑った。 「あーあ、バスまだかな」 「さっき行ったばっかりだろ?」 スガタは缶を手渡すとバスが来る方向を見て溜め息を吐いているタクトに呆れたようにそう言い放つとタクトは気まずそうにまた缶に口を付けて飲み始めた。 そんなタクトの様子を見て苦笑しながらもそっと道路に目を向けた。 「…――」 「――タクト?」 少しの間静かな時間が流れ、それが妙に心地良く感じている自分に驚きつつもふとタクトの様子がおかしいことにふと気付いたスガタは隣の彼の様子を横目で見た。 「――タクト、」 「な、何だよ」 スガタは隣のタクトの様子に驚きより先に呆れが先に出てしまった。 「顔、真っ赤だぞ」 「…――っ!!」 指摘された動揺でタクトは更に顔を耳まで赤くしていた。隣にいるスガタから少しでも距離を取ろうと体を引いているが、そんなタクトにスガタは容赦なく体を近付ける。 「――照れたのか」 「……」 まさかという気持ちで訊いた言葉だったが、黙り込んでいるタクトの様子を見て当たりだったかとスガタは考えていた。 「自分から言ってきたのに照れるなよ」 「いや、特に考えないで渡したけどその、」 「気付いたら急に恥ずかしくなったのか?」 「まあ、そうとも言う、かな……」 恥ずかしさで笑って誤魔化しているタクトに何がそうとも言うだと思いながらスガタはタクトの赤く染まった横顔を見て自分も妙に恥ずかしくなってきていることに動揺する。 スガタは一応回し飲みしたこと自体は初めてではないし、回し飲みをして恥ずかしいという感情を持ったことは決してなかった。 ――なのに、何故今こんなに恥ずかしいのか 顔を赤くして俯いていたタクトもスガタの異変に気付いたのかふと顔を上げるとそこには少し怒ったような顔で立っているスガタがいた。 タクトはそんなスガタに驚きつつも同じように立ち上がってスガタのことを真っ直ぐ見つめた。 (あれ、もしかしてスガタも――) そこまで思い付いてタクトは口を開こうとすると、目の前のスガタも思いつめたような顔で同時に口を開いた。 「え、スガタ何だよ?」 「タクトだって何か言おうとしてただろ」 どっちが先に言うかの譲り合いのような状態になってさっきまで照れていたことも忘れて話していた。そのことに気付くと少しおかしくて二人で顔を見合わせて笑ってしまった。 「あ、バス来た」 タクトがちょうど視線の先から走ってくるバスに気付き、嬉しそうにそう言った。そんなタクトを見てスガタは密かに少し残念なような寂しいような気持ちになって押し黙った。二人だけの時間はスガタには何故かとても温かくて心地良く感じた。 バスに真っ先に乗り込みスガタを呼んでいるタクトを見てスガタは小さく微笑んだ そんな些細な幸せ ――――――――― あとがき 回し飲み、アリな人って聞かずに普通に回し飲みして後になって照れるとかいいよねっていう妄想で出来た代物^p^ 誰これ状態がすごい……すみません |