★5000hit企画
▽跡さんリクエスト
こたつでほのぼの(スガタク)



「あ、あのさ」
「どうした?」

教室で帰り支度をしていたスガタに申し訳なさそうに声をかけてきたのはタクトだった。
いつもの明るくて元気な様子からは想像も出来ないことだが、タクトは思いの外繊細で気を使う質なのをスガタも最近気付いた。そんなタクトが言いづらそうにしている様子に一体どうしたものかと思い、首を傾げる。

「ス、スガタの家ってこたつあるかなっ!」
「……こたつ?」

本気で心配していたスガタは唐突なタクトの言葉に驚きながらも、少し安心した。思い詰めたようなタクトなんて出来るならば見たくはない。――しかし、

「でも、急にどうしたんだ?」
「いや、その……」

気まずそうな顔で頭をかくタクトに益々不思議に思いながらも、スガタはとりあえずこたつについて話すことにした。

「多分ワコの家にならあると思うけど」
「え、スガタの家にはないのか」

本気で驚いているタクトに何故そこまで驚くのかと思うが、スガタは気にしないことにして話し出す。

「僕の家見ただろ?あんな洋風な見た目だから」

タクトは最初に自分の家に来た筈だがと思いながらもそう言った。
スガタの家は基本的には洋風な屋敷だ。道場があり、そちらは和風だが道場にこたつを置く訳がない。そして、タクトに言った通りワコの家には確かこたつがあった筈だ。思い出しながらタクトに伝えると彼はとても残念そうな顔をした。

「こたつ、ないのか……」
「そんなにこたつに入りたかったのか?」

スガタのごもっともな質問にタクトは不思議そうな顔をして答えた。

「一回はこたつに入りたいと思うだろ?」

まるで当たり前だと言わんばかりの言い種にスガタは一体誰からの入れ知恵だと思いながら苦笑いした。
タクトは妙に世間知らずなことがあり、ふとした時に初めて見たと言って驚いては楽しそうにする姿を何度か見たことがあった。そんなタクトの反応が面白いのか演劇部の面々――特に先輩二人、があることないことをタクトに吹き込んでいたりすることが多々あった。
それを思い出したスガタは嫌な予感で胸が一杯になる。そして、その予想は見事に的中する。

「部長が言ってたよ。こたつに一回も入ったことないなんて人生損してる!って」
「へ、へえー」

タクトはサリナの口調や身振りを真似しながら丁寧にスガタに伝えてくる。彼女が実際に言っている光景がすぐに浮かんできた。しかし、それだけではないらしくこたつに関するサリナによる入れ知恵を真剣にタクトは語り始める。

「で、こたつに入ると…――」
「はい、そこまで」

これ以上聞いていると冗談でなく日が暮れてしまい兼ねないと判断したスガタはバッサリとタクトの話を遮った。
そんなスガタにタクトは明らかにショックを受けたような表情をしたが、スガタはこういう時こそ非情にならなければならないと思い、一切無視することにした。

「まあ、そこまで言うならワコの家に入れてもらえばいいよ」

こたつに入る位なら許してもらえるだろと言ってとりあえず自分は立ち去ろうとするが、何かに制服の裾を引っ張られるのを感じ立ち止まる。

「スガタも一緒に行こう」
「……ワコの家に?」
「うん」
「こたつに入りに?」
「うん」

スガタの微妙な表情を気にする様子もなく、タクトは無邪気に微笑みながら頷いた。タクトが繊細で人に気を使うなんて評価した自分は間違ってたのかとうっすら思いながら溜め息を吐いた。

「別に僕はこたつに興味は……」
「スガタと一緒の方が楽しいよ、きっと」
「意外と我が儘言うんだな」
「うん、ごめん」

謝りながらも反省した様子のないタクトの頬を人差し指でそっとつついた。少し悔しかったからだ――タクトと話している内にいつの間にか一緒に行きたいと思っている自分をタクトに悟られたようで、

「仕方ないから我が儘に付き合うよ」
「ありがとう!」

少しの悔しさでやや冷たくなるスガタの口調も全く気にすることなく、タクトは天真爛漫な笑顔で感謝した。
そして、二人でワコの下へと歩き出した。

――――
「もう、急に何かと思ったよ」
「急にごめんな、ワコ」

タクトの急な頼みにワコは驚いたような顔をしたが、すぐに快く引き受けた。
そして、三人で彼女の家へ歩きながらワコにタクトのこたつについての話を説明すると、ワコは最初こそ真面目に聞いていたが話が進むと堪えられずに吹き出して笑い出した。

「な、何それ……部長も大概だけど、タクトくんもそれ信じるって」
「部長の話って妙に説得力あるんだって」

ツボに入ってしまったのか爆笑しているワコに拗ねたように口を尖らせて呟いた。


そして、ワコの家にお邪魔すると確かにこたつが出してあった。

「わあ、……これがこたつか」

「なんか子供みたいだね、タクトくん」
「そうだな」

こたつに目を輝かせるタクトを見て二人は微笑んだ。特に何の変哲もない至って普通のこたつにここまで嬉しそうにしているタクトを見ていたらここまでの複雑な気持ちもどうでもよくなってしまう。
そして、そこまで自分の感情に素直でいられるタクトを少し羨ましく思った。

――――
「あったかーい」
「というよりちょっと暑くないか」
「まあ、そろそろ片付けようかと思ってた位だしね」

タクトは満足そうにこたつに入ってぬくぬくとしているが、スガタとワコは若干の暑さに複雑な表情になっていた。今日は一応まだ暖かいとまではいかないが、そこまで寒くもない日なので仕方ないのだが、スガタはとりあえずせめて少し出ようかと体を動かすとタクトが妙に寂しそうな瞳でこちらを見てくる。
スガタはすぐにその視線に気付き、体を強張らせた。小動物が寂しい時にする瞳(見たことはないが)で見つめてくるタクトに思わずスガタは息をのんだ。

(これは、――逃げられない)

タクトの瞳に勝てずこたつから出ようとしていた体は再び静かにこたつの中に収まった。
そして、同じように出ようかと思っていたワコも二人の視線でのやりとりを見て静かにこたつから出ようという考えを放り投げた。

二人揃って何だかんだこの少年に弱いのだと気付いてスガタはやっぱり勝てないなとタクトの満足そうな微笑みを見つめながら思って微笑んだ。



君の瞳に




―――――――――
あとがき

跡さんリクエストありがとうございました!

こたつでほのぼのさせる筈が何かおかしなことに…すみません´`;
このタイトルに続く言葉は完全にダジャレなので以下省略

では、ありがとうございました!




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