財前と一氏と忍足と金色・―つづき



 まっさらな白に、一つのてん。ただのてんでは意味を持たん。いってんが意味を持つためには、位置情報を示す座標や、関係を表すためのもう一つのてんがいる。アタシにとって、それはユウくんやった。

 気付いたら、ユウくんとアタシには距離が出来ていた。昨日まで分からへんかったんに、今日になって改めて見たら、こんなに開いとった。そない感覚。
 ユウくんは謙也とおるようになった。この頃観察して気付いたことや。正確には、一人でおるユウくんに謙也が近付いてくっちゅう図式。いつの間に、アタシから離れとったんやろ、気付かへんかった。ユウくんは、謙也にだけ傍におるのを許しとるみたいや。アタシの傍におると、何でか緊張しとるみたいに見える。
 今も謙也と話しとる。謙也は相変わらずニコニコしとるけど、ユウくんは元気がないみたい。あの子の笑い方って、ああやったっけ?違う、違う。もっとはじけるように笑う。
 ウジウジ、嫉妬深いけど、あない顔はせんかった。あの日から、ずっと、あない沈んだ顔。

 頭がええのと、人の機微によう気が付くんとは、違う。ただアタシは、聡かった。ユウくんと、光の間に何かあったて、すぐに分かった。ユウくんは、光の存在を蔑ろにしとる。光は、怖いくらいにユウくんのこと、見とるのに。光が、何ややらかしたんやろう。そして、それが、あの日ユウくんの噤んだ口から出えへんかった言葉。
 アタシが無力で、聞けへんかった言葉。

 ユウくんは、何を避けて口を閉ざしたんやろう。

 光は、ユウくんを何故、殴ったんやろう。

 アタシには、それだけの謎しか与えられてへん。
 ユウくんは、アタシを拒む。満身創痍で震えるユウくんに、追及することは出来へん。

 ユウくんは、謙也に何を話しとるんやろう。謙也は、二人の間にあったことを知っとるんやろうか。

 いびつな、しかっけーや。綺麗なしかっけーと面積は同じなんに、てんの関係性は、あるにてんの距離だけ近く、後は遠い。アタシとユウくんの距離も少しずつ離れとる。


 寂しく思う。
 悔しく思う。
 せやけど、アタシはユウくんを追うことは出来へん。


 アタシがユウくんに恋をすることは、ない。アタシがユウくんをその意味で愛することは、ない。
 立ち入り禁止のちょくせんを引いたのはユウくん。

 アタシのためか、ユウくん自身のためかは、分からへん。でも、ユウくんはアタシを巻き込まないと決めた。アタシが、ユウくんを好きにならへんと、知っていて。

 ユウくんは、賢い。アタシは見透かされとる。

 アタシには、ユウくんを自分の都合のええように傍に置いとける権利はない。きっと一生手にすることはない。いつか謙也は手に入れるやろうか。


 アタシは、まっさらな白に置かれた一つのてん。ユウくんが必要なとき、アタシに意味を付けてくれたらええ。座標や、もう一つのてんになればええ。アタシは、ユウくんの必要に応じる。アタシにはそれしか出来へん。

 アタシは、ユウくんのためにただのてんであり続ける。




てん


100130 町田
ふゆかわ(くちなし)さんへ



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