財前と一氏 ユウジ先輩ちゅうのは、ホンマにウザいしキモイし、先輩とか関係なしに時々ド突いたろかと本気に思うけど、人気のある人や。小春さんにぞっこんやし、普段は目つきも愛想も悪いねんけど、ネタはごっつおもろいからファンが多い。それだけやのうて、男にごっつモテる。小春さんにマジみたいやし、ユウジ先輩はホモかバイかで確定やけど、そん興味の対象は小春さんだけみたいや。謙也さんとかホンマに、ホモか知らんけど、ユウジ先輩んこと切実な目で見とる。他にも、部長やら千歳さんやらあやしいし、金ちゃんにもよう懐かれとる。せやけど、やっぱ一番は謙也さんやな。小春さんは心配あらへん。あんなキャラしとるけど、作ったもんやし、それにバリバリのヘテロやから。ユウジ先輩のフェロモンはどうやら、その気のある奴にしか効かんようやし。そんなユウジ先輩に落ちてもうた俺は、先輩に会ってまったせいでバイになった不幸な男の子や。 「スマンなぁ、今日は財前と約束しとるから」 「あ…ホンマ。せやったんか。そら、残念やな…」 「また誘ってや」 「そう、するわ」 放課後、ユウジ先輩と一緒に帰っとると、謙也さんが待ち構えていて、えらい緊張した様子でユウジ先輩に誘いをかけた。それをユウジ先輩が申し訳なさそうに断るんを、俺は隣りで見とった。謙也さんはぎこちなく笑った。 「謙也さん、えらいスンマセン」 「や、エエねん。楽しんできいや」 口先ばかりの謝罪だというのに、この鈍感でお人よしの先輩は精一杯の笑顔で答える。自分で仕組んだ策やけど、謙也さんの気持ちを考えたら切ない。せっかく好きな人に勇気出して誘いかけたんに、他に約束があるって断られんのはキツイやろな。謙也さんにとったら俺は悪魔かもしれへん。せやけど、何がなんでも今日のこの特等席は譲れん。 「ほなまたな、謙也」 「ん、ほなな。誕生日おめでとさん、ユウジ」 「おん、おおきに」 にっこり笑って、目が糸目になるユウジ先輩はえらいかわいらしい。これくらいは、分けたってもエエやろ。謙也さんの横をすり抜ける。振り返りざまに軽く首を下げると、切ない目したまんま謙也さんは手を振ってくれた。 今日の約束をしたんは一ヶ月も前のことやった。3ゲームマッチでユウジ先輩が俺に勝てたら、誕生日に行列のできるたこ焼き屋のたこ焼きを奢ったるっちゅう条件で試合した。俺はうまい具合にわざと負けたって、ユウジ先輩はえらい喜んどった。俺がユウジ先輩に負けたるのはその一回限りやから、調子が悪かったんですっちゅうフォローも忘れんかった。 そんで今日、放課後んなってユウジ先輩を教室に迎えに行ったら、アホなこん人はすっかり忘れとって、しょげた顔で「小春が用事あるらしいからエエで」なんて、えらいムカつくこと言うてきた。先に約束しとったんは、俺でしょう?そう言いたなったけど、女々しいと思って言わんかった。それでも、謙也さんみたいに唇を噛むことはなかったんやから、まぁエエやろ。 悔しいことに、俺が生まれるんは一年遅すぎて、ユウジ先輩と一緒におれる時間はだいぶ限られてしまう。俺が能動的にせんと、こないな二人っきりなんちゅうシチュは生まれん。厄介なモンやと思う。面倒やし、罪悪感はあるし、望みは薄いし。正直、しんどいわ。せやけど、好きなんや。俺も人間なんやな、と思う。 「…なんや、今日はえらい喋りよるな〜。普段もそうしとったらエエのに」 「俺が誘ったんに、つまらんてアホに文句言われんのが癪やから喋っとるんスわ」 「誰がアホや!減らず口ばっかりでホンマ可愛げのないやっちゃ!やっぱり、喋らんでエエ!」 「まぁ、落ち着いてくださいよ。アンタ誕生日やねんから、怒らんでください」 「オドレのせいやがな!」 ぷんすか怒っとる先輩かて、かわええ。アバタもエクボなんちゅう上手い諺があったもんや。たこ焼き特盛りにしたります、て言うたらユウジ先輩の機嫌はすぐに直った。そんなんもかわええ。 「…ほんで、一氏、って、S足したら一筋になりよるんスわ」 「あ、ホンマや。よう気ついたなー!」 気ついたらアンタん名前何十分も見つめとったことがあった。病気やな、笑われへんけど。一筋、名誉やろうな。小春さん一筋。ユウジ先輩はえらいご機嫌な笑顔浮かべとる。せやけど。 「せやけど、Sがないから一筋じゃないねん」 「そ!そんなことあらへん!俺は小春一筋やし!」 真っ赤になって怒って、腹立たしい。アンタが一筋やったら、報われん人がナンボおるんか、知ってますか。さっきの謙也さん、見てへんかったんか。えらい落ち込んで、かわいそうやったやろ?アンタ鈍感やから、気づかんやろうけどな。俺かて、めっちゃ落ち込むときもあります。アンタが、真剣な顔で小春さんこと好きやって言うとき。俺とおんのに、そうやって小春さんこと考えてるとき。真剣な顔で「せやったらSになったらエエんかな、…俺小春に痛いことでけへん」なんてこと言うとき。Sがないから、一筋や無うてよかったと思います。俺にも可能性あるかもしれへんでしょ。アンタの気持ちが変わる可能性が、あるかもしれへんなら。 「…せやけど、あれやな。俺、財前に嫌われとるんかと思とった」 「何でスか」 「俺んことだけ先輩付けやろ。何やよそよそしいやんか。せやけど、今日誘ってくれたっちゅうこっちゃ、違うんやろ」 「よう分かってますね。まあ、ユウジ先輩はキモイっスけど、嫌いじゃないっスわ」 「やっぱり一言多いねん…!」 鈍いくせによう分かりましたね。アンタだけ特別にしとんねん。ホンマは、逆やろうけどな。せやけど、俺の精一杯。 あともうちょっとでたこ焼き屋に着いてまう。そっから、また時間はあっちゅう間で、すぐにユウジ先輩とさよならせんとアカンなる。きっと、中学校生活もそんなモンなんやろう。しんどい。 泣きそうになったけど、精一杯笑顔浮かべた。普段笑わんから、どんな笑顔になっとるかは分からん。シュッとしてへんでも、不細工やなかったらエエわ。 「…ユウジ先輩、誕生日おめでとうございます」 「おおきに」 精一杯の笑顔 |