財前と一氏・新婚パラレル
一緒に暮らしましょう

 全く首尾の良いことだ。見合いの成立した翌日にはすでにマンションに入居できるようになっていた。費用はきっちり折半らしい!
 出来立てのデザイナーズマンションは、外観から俺の好みだ。しかし、財前の家にはお義兄さん夫婦がいたはず…年若い男女を差し置いて俺たちが良いのだろうか、と思っていたが年若い男二人の方が気まずいと、財前に言われた。
せやな…。
 そんなわけで示し合わせたかのような4階10番目の部屋、要は410号室が俺たちの新居となった。大概ダジャレが好きだ。表札には、財前 光と、ユウジの文字。
 ドラマでよう見るやつみたいや。

「なんか、恥ずかしいな。財前?」
 少し照れながら、隣の財前に話し掛ける。
「ねぇ、ユウジさん。夫婦なんやから、アンタも財前ですけど?」

 アンタ昨日まで名前で呼んだことなんあらへんかったやないの!
 暗に名前を呼べと示されている。きっと耳まで真っ赤だ。

「ひっ…ひひひ、ひっひか…」
「あと一声」
「ピッピカチュー…どや…?」
「あきません」
 物まねは会心の一撃だったが、誤魔化しきれなかった。
 ちょっとアカンわ。勇気が出ん…。

「あ、あんな。長期計画でお願いします…」
「ま、ええですよ。これからずっと一緒やねんから」

 にこってな。ホンマこいつ何やの!

 俺ばっかり顔赤くして悔しいから、財前の胸に押し付けて隠した。



家具を選びましょう

 新居は新居らしく何にもなかった。因みに、間取りは1LDKにトイレバス付き。ついでにバルコニーも付いている。それぞれが広く、ゆったりとしている。家賃もきっと高いのだろう…。大人たちは教えてくれない。財前はいずれ買い取ると言っている。これは大きな貸しだと、少し悔しそうだった。

 まずは二人とも着替えを持ち込んだ。デートも何もあったもんじゃないから、財前の私服を見るとドキドキする。
 あ、このパーカ、かっこええ。着てくれへんかな。後で頼んでみよ。

 それから、コンポやテレビなどの家電。家具はどうするのかと思ったら、買いに行くらしい。
「ユウジさん、こういうの選ぶの好きでしょう?好きにコーディネートしたってください」
「えっホンマに?ええの?!」
「結婚祝いにぎょうさんもらいました。式は安上がりやったし」
 家族の前で養子縁組みの書類を書き、ついでに形ばかり婚姻届にもサインした。それから、指輪は無いので携帯ストラップを交換してみた。
「指輪はいずれ買うたりますからね」
 自分で稼いだお金でなければ嫌だと財前が言うので、指輪はお預け。
 めっちゃ楽しみ。
 将来の約束が増えていく。

 どんな部屋にしよう。財前のピアスに合わせてカラフルな部屋にしようか、それとも大人っぽくモノクロでシックに?アジアンテイストなら癒されるかも…。でも。

「あー、アカン!アカンよ!」
「何がですか?」
「調和とかな、どうでもええよ!二人で住むんやから二人の気に入ったモン買おうや!」
 財前の腕を掴んで訴える。一人で考えるのは寂しい。二人でいるのならば、共有したい。
「ほな、そうしまひょか」
「おん!」

 かくして二人は家具屋へ旅立った。

 財前は輸入家具がいいかと聞いてきたけれど、俺は首を振った。家計はきっちり締めていかなければ。
「ええ嫁さんで嬉しいッスわ」
 事も無げに言う財前をド突いた。

 お義兄さんに、ニで始まる3文字の家具屋さんに連れてきてもらった。少し安っぽいかもしれないが、安くて良い品を見つければ、それこそ儲けモノだ。張り切って腕まくりをすれば、財前が笑う。
 やっぱりパーカ、かっこええ!
 頼んで着てもらったパーカは、想像よりも財前に似合っていた。
広い店内を回るのは一日仕事になるだろう。お義兄さんにはひとまず帰ってもらった。
まずは必要な物から、とベッドを見た。早い内に買ってしまわないと、床で寝ることになる。
 せっかくの引っ越しやのに、一日目にして実家に帰るとか嫌やし!
 どうするのかとは思っていたが、財前は当然の様にダブルベッドを物色している。
 や、やっぱり、そうなんや…。
 その中の一つに寝転がった財前が、俺を手招く。少しドキドキしながら、横に並んで寝てみる。気持ちがいい。
「どないです?」
 瞑っていた目を開ければ、財前が覗き込んでいた。
「うっ、うわぁあっ!!」
 慌てて飛び起きる。強かに頭をぶつけた。財前の顎にだ。
「った…」
「わぁぁ、スマンッ」
 財前は顎を抑える。思い切りぶつかったから、かなり痛いだろう。
「まあ、ええッスわ。今後気ぃ付けてください」
「おん…。あ、痛いの痛いのとんでけー」
 子どもにするようだけれど、顎を撫でさすってやれば、気持ちだけでも違う。俺は許容した事実に気づいていなかった。財前の言ったのは、こういうことが今後もあるという事だ。
 財前はびっくりしたようだけれども、すぐに満足げに笑った。
「治りましたよ、ありがとうございます」

 結局その寝心地の良いヘッドランプ付きのダブルベッドを購入した。先に代金を払い、窓から入れねばならないだろうから、留守をしてくれているお義姉さんに連絡した。デザイナーズマンションは、やたらと窓がでかかった。助かる。お義姉さんに後を頼んで、今度はキッチン用品売場へと移った。

 意外にも、財前は丹念にキッチン用品を選んでいる。俺はさっぱり料理ができない。
皿の良し悪しとか、よう分からん。
 聞けば、財前は主夫修行をしたのだという。料理もそれなりの腕前らしい。洗い物は手伝うと言ったら、揃いのプラスチックのコップや、割れにくい素材の皿をかごに入れた。
 親切なんか、嫌みなんか…。
「万が一皿が割れて、ユウジさんの指に傷が付いたら嫌ですからね」
 眉根を歪めていたのに気付いたらしい。そっと肩に唇を寄せ、耳元に囁く。細かい心遣いと、口説くような態度に顔が赤くなる。

 かわいい形のスプーンや、コーヒーカップなんかも買った。財前のピアスのようにカラフルな食器たちが食卓に並ぶだろう。楽しみだ。


 最後に見たのはリビング用品の売り場だ。テレビやコンポなどの家電のための棚や、テーブルなどを探す。
 食器たちや、料理が映えるようにダイニングテーブルは白、チェアは黒にした。そこから、メインルームのイメージは、大物はモノクロでシックに、小物はカラフルにしようと決めた。元々財前はカーマインが好きで、俺が好きなのは藍色。メリハリのある色が好きなお互いだから、持ってきた小物も色味が多い。黒と白、映える色はどちらかと考えるのは楽しく、どんどん決まる。
 早く家に帰って並べてみたいわ!むっちゃかわええやろな!
 逸る気持ちが、足を弾ませる。そんな俺を見て、財前が笑う。恥ずかしく思うけれど、なんだか嬉しい。

 一切を好みで決めてしまっているが、どうやら予算の範囲内らしい。太っ腹で助かる。
 たとえ足が出たとしても値切ったるけど!

 最後の最後。一番重要な、テレビ前のソファを決める。俺は何を措いてもテレビ好き。ベストポジションにベストなソファ。これだけは譲れない。真剣に座り心地や、背もたれの角度なんかを確かめる。財前も飽きずに俺の後をついて回って、一緒に座って確かめる。
「ユウジさん、ええですか?」
「何?」
 柔らかい座り心地のリクライニングする大きなソファに座ったところで、財前が話しかけてきた。スエードのような柔らかい生地張りのそれが、微睡みを運んでくる。
「一つ、我が儘ええですか?」
 上半身を起こして隣りに座る財前の顔を見る。真剣な顔で、俺はこくりと頷いた。
「俺、喧嘩しても何しても、ユウジさんの隣りにおりたいんです。せやからソファは、きっかり二人掛けの狭いやつがええんです」
 その言葉に、当然、照れないわけも、惹かれないわけもなく。

 財前家のリビングには、真っ赤な二人掛けのソファが鎮座することになった。
 たとえ喧嘩をしても、ここに座ったらきっとちゃんと謝れる。幸せはここから生まれる。

 世界で一番ええもん買うた!


つづく…


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