遠山と一氏



 好きな人ができた。その人をデートに誘いたいと相談すれば、白石は完璧なデートプランを考えてくれ、謙也は服をコーディネートしてくれた。相手は誰かと聞かれたが、答えなかった。それでも二人は上手く行くとエエなと、応援してくれた。


「日曜日の朝十時に四天宝寺駅、来てや」
 金曜日の部活終わり。それだけ言って、ユウジが何か言う前に言い逃げする。鞄を担いでドアに手をかけた一瞬、光と目が合った。


 帽子は普段被らないけれど、今日は特別だ。前髪が額に擦れて痒い。
 待ち合わせの三十分前に来て、駅の壁に凭れながらユウジを待つ。ユウジは来てくれるだろうか。たとえ待ち合わせに遅れても、夕方まで待つから、どうか来てほしい。デジタルの腕時計を見る。一秒を数える光の点滅が、やけに遅く感じる。この賑やかな雑踏を割って、ユウジは来るだろうか。

「金ちゃん!」
 待ちわびた声に顔を上げる。ユウジはさすがにしゃれた着こなしで、謙也に見立ててもらって正解だった。自分で考えると、ヒョウ柄のランニング以外思いつかないのだ。
「えらい待たせてしもたかな?」
「そないことあらへん!ワイが早よ来てもうただけやから!」
 白石に教えてもらった常套句を返す。実際に待ち合わせまであと五分はある。ユウジが来てくれたことに安堵する。
「来てくれて、ホンマおおきに」
 言えば、ユウジはにこりと笑った。

「金ちゃん、今日はえらいカッコええな」
「ホンマ?」
 ジャケットなんて着たこともない。今日のための一張羅だ。赤くなった頬を隠すために帽子を押さえる。

 今日のデートはセオリー通りの簡単なもの。まずは映画を見て、その後昼食を取る。映画の半券を見せれば割引が利くというもの。無駄を嫌う白石らしい。それから、ショッピングモールで買い物。最近出来たばかりのショッピングモールには、ゲームセンターも入っている。そこで今日の思い出にプリクラを撮れば、デートは成功だ。

「今日はどこに行くん?」
 その簡単な日程も何も教えないで、ユウジはよく来てくれたものだ。
「最初は、映画」
 映画の前売りチケットを差し出す。ユウジが見たいと言っていたもの、聞いていて買っておいた。受け取ったユウジの顔が、刹那曇る。
「これ、見たかったんや。金ちゃんよう知っとったな」
 けれど、すぐに笑顔になってそう言った。
「ほな、行こ」
 ユウジの誤魔化しに甘えて、そのことに気付かなかったふりをして、ユウジの手を引く。傍からどんな風に見られているだろうか。ユウジとの身長差は、十五センチ以上。

 映画は、男二人で見るには寒い、恋愛もの。山場は確かに感動的で、ユウジは泣いていた。そうやって、素直に泣くユウジが好きだ。
 それから昼食をとって、買い物をして。その時間はあっという間だった。

 ユウジはよく喋り、笑い、楽しそうにしていたので、抱いていた不安は払拭された。プリクラも断られなかった。二人で並んで、笑顔で撮った。落書きは全面的にユウジに任せた。がちゃがちゃと派手な画面がユウジらしい。

 デートは楽しくて、幸せで、あっけなく終わり。白石のデートプランも、謙也のコーディネートも完璧だった。成功と言っていいだろう。
 あとは、告白だけ。

 振り出しに戻るで、四天宝寺駅の前。ロータリーに設置されているベンチに腰掛け、ユウジに向かう。
「ユウジ。あんな、ワイ、ユウジのことが好きやねん」
 ユウジは覚悟を決めたように神妙な表情をしていた。息を詰めて、こちらを見つめている。これだけ分かりやすくアプローチしていれば、当然気付く。薄い唇を舐めて、ユウジは口を開いた。
「金ちゃん、俺…」
 ユウジが言いかけた言葉を手のひらで受け止める。今日見た映画では、外国の俳優がカッコよく唇で塞いでいた。そんな気障な真似ができるはずもなく、こうして手を当てる。ユウジの唇は柔らかく、暖かい。

 実は聞いてしまったのだ。自分が出て行ったあとのユウジと光の会話を。

 貸したってもエエっスわと、自分の所有物のように言う光と、生意気だと怒りながらも照れたようなユウジの声。

「その先は、言わんといて」

 白石、謙也、ごめんな。二人のアドバイスはよかったけど、告白は上手く行かなさそうだ。
 もし、光よりずっと魅力のある男だったら、今日一日でユウジの心を奪って、きっとこの先も良い返事が聞けただろう。


 ワイは少しずるい。
 きっと、映画も、ユウジは光と見に行くつもりだった。この先どんな形でも、映画を見ればユウジは自分を思い出すだろう。

 今日一日はユウジはワイのもの。光に借りた体でも、ワイとデートしてるんだから。
 あと少しだけ。
「言わんといて」
その先は言わないで

告白さまに寄せて、
20100526 町田(一部加筆)


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