財前と一氏・てん つづき



 ユウジさんと俺の距離はいつも一定。ユウジさんを中心に、正円を辿るように。俺が望むようには近づかへん。ユウジさんの望むようには遠ざかへらん。内圧と外圧の均衡で、俺はまるを辿る。

 一度、無理やりゼロまで近付いた。まるを歪めて。歪(ひず)みが跳ね返るその反動で、気付いたときには中心からの距離は途方もない。そん肌に触れたときは、まさに夢心地やった。想像しとったような柔こさはあらへんかったけど、つるりとした滑らかな肌は俺の夢想を遙かに越えた。そして、今はまさしく夢になってしまった。前の晩に見たものはすべて過去。ユウジさんにとってはただの悪夢。幸せな夢にすり替わっても、正夢にはならんやろう。

 無理やりは、正しい方法やあらへん。そんなんもちろん分かっとったことやけど、そんときはそれしか見えへんかった。
 正しい道が見っからへん。中心に繋がる正しい道が。俺は焦っとった。


 ユウジさんは、俺を無にする。無意味にする。

 見つめ続けた甘い唇から、俺に対して特別な言葉をくれたためしはない。

 ユウジさんの言葉は、財前光をただの後輩にする。ただの部員にする。ただの人間にする。そうして、俺の意味を無くす。


 ユウジさんをはじめて見っけた小六の夏。俺は四天宝寺と私立と迷っとって、四天宝寺に見学に行った。テニスは、地元のスクールに通っとる。それなりに実力を持て囃されて、部活に入るんやったらテニス部やって決めとった。勝つんが嬉しい、人より上位に立つんが楽しい。
 それが俺や。俺のテニス。俺の価値観。
 せやのに、あの先輩は何やねん。アホみたいに楽しいだけのテニス。対戦相手を笑かしたり、負けてもそれを笑いモンにしてしまう。信じられへん人種や。俺とは全く違う。
 フェンスにしがみついて、ユウジさんの姿だけ見つめとった。ユウジさんは俺を一度も見ることはあらへんかった。
 綺麗な蝶々とは違う。せやけど、逃げるんを追わないではいられへん。手を伸ばせば、金網に遮られる。追いかけへんかったら、一生追いつくこともあらへん。俺は、四天宝寺に入学を決めた。

 いかにユウジさんを手に入れるか。何度想定したか、分かられへん。すべて、成功に導いた。

 せやのに、現実は。

 ろくに近付けもせえへん。話し掛けても、ユウジさんは俺の言葉を一般化してしまう。まる以上にユウジさんに踏み込めん。
 ユウジさんは薄情な人や。優しいしてくれる人やったら誰でもエエくせに、俺は最初から選択肢に含まれてへん。近づけへんのに、触れられへんのに、優しいしたるなんちゅうこと出来へん。ユウジさんが隙をくれたら、ナンボでも優しいしたったに。甘い蜜で絡めて、手放さへんのに。
 弾のないロシアンルーレットが成立するわけあらへん。
 こんなに好いとるんに、ユウジさんは薄情。


 正しい道は必ずどっかにあったはずなんや。
 好かれる可能性は自ら摘んでしもた。せやけど、もしかしたら見っかるかもしれへん。万が一の確率でも、亀毛兎角(きもうとかく)や言われても。たとえ遠回りでも、あん人に続く道が。追いかけへんかったら、一生追いつくこともあらへん。


 俺は延々とまるを辿る。正しい道を探して。



まる

20100331 町田
ずけいにご声援をくださった方へ捧げます




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