貴方の匂い




ねぇ、ちょっと聞いてくれないかしら、本当? ありがとう!
私の彼っていつもインクの香りがするの。まぁ、当然よね? だって彼は漫画家で、私という恋人が家に来てたって、その手を止めないんだもの。私が肩を叩いて話しかけなくっちゃあ、存在にすら気づいてくれないんですもの。でもたまには私が話しかける前に気づいてほしいの、そうじゃあないと彼のとっても大切な原稿に嫉妬してしまうわ!
それなら仕事中に行くなって? それは無理な話よ! だって私は仕事中の彼が大好きなの! 真剣な顔、素早く動いて紙に物語を綴っていく手、カリカリというペンの音、まだ乾かないインクの匂い。彼と同じ匂いのする仕事場はまるで抱きしめられてるみたいで心地がいいの。え? 惚気はやめろって? ふふっ、ごめんなさい。
あら、もうこんな時間。私行かなくっちゃあいけない所があるの、もう少しお話がしたいけどお暇させていただくわ。え? 彼のところに行くのかって? えぇ、実はそうなの。もう! 冷やかさないで! 今日は話を聞いてくれてありがとう、また今度ね。


突然だが僕の彼女からは、薔薇の香りがする。これは彼氏が色眼鏡で見てるなんてものじゃあなく、本当に薔薇の香りがするんだ。色で言うなら淡いピンクかな、僕や僕の仕事場の匂いは黒だ。インクを必ず使う職業だからね、仕方の無いことさ。そんな部屋だからこそ彼女が来た時はすぐに分かる、あんな香りを振りまいているんだ、気づかない方が無理ってものさ。でも僕は気づいてない振りをしてやるんだ、勿論彼女のぶっさいくな膨れっ面を見るためにね! あと彼女が来ると香りに少しだけ集中を乱されるんだ、その報復も兼ねてるね。でもまぁ、たまには気づいてやるのもいいかもな。最近膨れっ面ばかりで少し飽きてきたんだ、たまには別の表情も見てやるとするか。彼女、僕が気づいたらきっと間抜け面になるんだろうなぁ。きっと面白いぞ。あぁ、彼女が来るのが少し楽しみだ。


「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -