5




「あらまぁ、日向子ちゃんと上代さんとこの奥さん、いらっしゃい」
「駄菓子屋のおばあちゃんこんにちは!」
「池沢屋さんどうも〜」

プラスチックの容器に入ったグミやガム、くるくるとねじれたゼリーは光を反射してキラキラと輝いている。
駄菓子屋さんはいつきてもワクワクする、子供にとってのお手軽遊園地だ。

「日向子、300円までだからね」
「わかってる!」

そう、明日は楽しみにしていた遠足。友達と交換が出来る小分けで激エモでナウいお菓子を選ばねばならないのだ!!

超重大特別ミッションに瞳を燃やし、店内を物色しはじめる。

うーーーーん、ゼリーはくるくるのやつにするべきかこんにゃくの安い方にするべきか……。
お友達と交換するならこんにゃくのほう?
でもくるくるゼリーは捨てがたい……。

「あら、池沢屋さん猫飼い始めたんですか?」
「そうなのよぉ」

そんな雑談が耳に入り、日向子の意識がぱっとそちらへ持っていかれる。持っていた駄菓子を置き、母と駄菓子屋のおばあさんが話している方へと向かう

「猫ちゃんいるの?」
「ええ、ほら、この子よ」

駄菓子屋のお婆さんはそういうと自分の膝上からなにかを持ち上げた、手にぶらんとぶら下がっているのは首元に赤と白の紐、そして鈴をつけた、水色の猫。

「うわあ、すごい色!」
「まぁ! 何があったんですか?」

鮮やかな水色はとても自然には生えてくるとは思えない色で、日向子は思わず大きな声をあげてしまった。
水色の毛をした猫は金色の瞳をキラキラとさせ、何故かずっと口元が笑っているように見える子だった。

「元野良の子でね。誰かが染めちゃったのか、うちに来た時はもうその色だったのよ。洗っても落ちないから可哀想で」
「こんな酷いことをするなんて……」
「猫ちゃん、もともとは違う色なの?」
「多分ねぇ、生え変わりを待つしかないかしらねぇ」

会計カウンターに乗せられたその猫は人懐っこくにゃあ、と鳴いた。日向子がそっと指を差し出すとピトリと鼻をくっつけ挨拶をしてくれた。

「お名前なんて言うの?」
「真珠よ」
「真珠? なんで? この子は白くないよ?」
「あたしにとっちゃ珠のように大切な子だからだよ」
「ふふ、池沢屋さんにとっては子供のようなものなんですね」
「あたしの年齢じゃ孫かしらねえ」

じ、と真珠と呼ばれた猫のきんきらまんまるの目に視線をあわせて見つめていると、真珠が身を乗り出して、ずん、と近づいてきた。

「えっ、わっ!?」

ゴチ、真珠が日向子の額に自分の額を強く押しつける、そのままぐりぐりと擦り付けてきた。

「あらまぁ、仲良しだねぇ」
「この子動物に懐かれやすい訳じゃないのに……よっほど人が好きなのね」

初めて会ったのに自分のことを好いてくれている、そんな嬉しい事実にふつふつと胸が湧き、全身が暖かくなるような心地になる。
とっ、と軽い調子で真珠が地面に着地し、お菓子コーナーへと向かう。それが日向子には一緒にお菓子を選ぼうと言ってるように思えた。

「選ぶの手伝ってくれる?」

いいよ! 猫が鳴き、商品棚の上に飛び乗る。お菓子を踏まないように気をつけているが、側から見れば危なっかしいのに変わりはない。「これこれ」駄菓子屋のおばあさんが声をかけるが、真珠はきょと、と目を丸めるばかり。
人間の事情など猫は知りもしないのだ。



 それから時が経ち、日向子が中学生へあがるころ駄菓子屋のおばあちゃんの訃報が耳に届いた。旦那さんも子供も亡くしていたおばあちゃんのお葬式は遠縁の親戚だという青年が喪主となってとり行ったらしい。

ある日の夕方、いつもの帰り道からなんとなく外れ、駄菓子屋だった建物がある通りをすすむ。
駄菓子屋の前に学生帽を被った青年が立っていた。

「こんばんは」
「えと、こんばんは」

名前が挨拶をするより先にこちらへと気づき、青年が笑顔で挨拶をする。にこにことしたその表情に、日向子はどこか見覚えがあるような気がした。

「もうじきに暗くなるから気をつけて帰ってね!」
「は、はい」

人好きする笑顔を浮かべ、いかにも好青年といった感じの彼に日向子の頬も思わず赤くなってしまう。
横を通り過ぎる際、チラリと青年の顔を盗み見る。

 落ちてきた夕日が青年の顔に差し込み、彼が眩しそうに眼を細める。
その目は、おばあちゃんが亡くなってから行方知れずとなっているあの猫と同じ、金色だった。


- 5 -


[*前] | [次#]
ページ:




「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -