「で、何でワシはあんたの事を忘れてたんだ?」
サラサラと穏やかに流れる川を見つめる形で、左からぬらりひょん、仙狸、咲喜、銀水、水龍、蓮水とその他の配下が座っている。
銀水は川に小石を投げながら言った。
『私が消したのよ、貴方の記憶をね』
「どうしてそこまでしたんだ?」
質問を投げかける咲喜に、朗らかに答える。
『その時…私はかなり荒れていたから。まだ<姫>の位をお母様から継いで、三日も経っていなかったし』
どこか寂しげに告げる銀水。それに仙狸は疑問を抱いたようだ。
「お前、まだ二百年しか生きていないんだろう。そんなに早く母親が死ぬなんて、奇襲でも受けたか?」
「「……え?」」
奇襲。
その言葉は、ぬらりひょんと咲喜が興味を抱くのに十分な単語だった。
蓮水たちは気まずそうだ。
それにもかかわらず、銀水は穏やかに微笑んだ。
『いえ、その時はそんな物騒な時代じゃなかったわ。
お母様が一族を率いた時代は…私達にとって最も栄華を極めていたから。
私がお母様を、殺したの』
「…………銀水」
今まで黙っていた水龍が、初めて銀水を咎めるように呼ぶ。
それすらも気にせずに、銀水は続けていた。
普通に、笑っている。
『可笑しいでしょう? 母を殺めて尚…私は平気に笑っているの。
別に互いが互いを憎んでいたわけじゃない。お母様は私を愛してくれていたし、私もあの人が大好きだった。
ただ…あの人のやり方が気に入らなかっただけ。それがたとえ正しかったとしても………
まるで暴君のように配下を扱うのが許せなくて、あっさり私は母を裏切った』
それが、自分たちが滅び行くきっかけだということを知っておきながら。
その三日後、ぬらりひょんが現れた。
すっかり心を閉ざし、荒れ始めていた銀水は何度も諦めずに来るぬらりひょんに腹を立て、終いには記憶を抹消してしまったのだ。
『ある意味、あれ八つ当たりよねっ!! でも貴方が転んで涙目だったところ、思い出すだけで腹が……プっ…』
「うわ、殺意湧く」
「おい…いくらなんでも笑うのは…ククッ……」
「咲喜ッ!?」
無駄にショックを受けているぬらりひょん。
自分の恥ずかしい過去を暴露されてしまったのだ、無理もない。
『ははッ……まぁ、その時はまだ水龍と出会ってなかったから…もうやりたい放題だったわけ』
ケラケラと笑っている銀水。なんだかすっきりした顔をしていた。
『ありがとうね、咲喜様!! 聞いてくれて……こういう風に話せる人に出会ったの初めてなのよ』
「「……(友達いないのか?)」」
ぬらりひょんと咲喜の疑問に気付かないまま、銀水は水龍と話し始める。
『ねぇ…あと何日、京にいられる?』
「…今日来たばかりだからね。もう三日は持つと思うよ? それ以上は危険だ……あの女狐のことだ、黒蝶にも人魚にも気づいてしまうだろうからね」
『えっ!? もっと頑張ってよ!無敵なんでしょ!? もう少し私たちの気配を隠して!!』
「僕がどんなに気配を消しても、糞羽衣狐は気づいちゃうんだよ……厄介な妖怪だ。
それに、余裕を持って三日だから。二日ぐらい早く抜けないと、すまないんだけど……
ここ等一帯、洪水に呑み込まれちゃうよ(銀水が糞ポンコツ化け狐にいつ見つかってしまうのか不安で)」
『ぇ………』←絶句
「あ、あの馬鹿狐ぶっ殺していい?
だったら今すぐ大阪城に行って下僕共も一緒に瞬殺してきてあげるよ?
そしたら僕が魑魅魍魎の主になるね……楽しそうだ」
『やめて。
私が悪かったから。………この人が神様だっていうこと忘れてた……だって威厳も糞も無いんだもの!!』
「んー?」
『ごめんなさいごめんなさい大阪城へ行こうとしてるその足をやめて!! ぬらりひょんのことも考えてッ!!』
「「「…………」」」
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