『ふぅん…前よりはマシになったようね』
「当然じゃ……ワシとて百鬼夜行を率いているからな」
あら、組を持ったの? と銀水は意外そうだ。
「つーことでだ、ワシの百鬼に『美味しい?』「む……なかなか美味だ」何仲良く甘味を分け合っている!?」
ぬらりひょんとクスクス笑っている水龍を無視して、呑気に二人は甘味を分け合い食べていた。銀水に至っては何処から出したのか。
もぐもぐと咀嚼しながら銀水はぬらりひょんに言い放つ。
『ふん、糞餓鬼の百鬼なんかに加わってたまるかってんのよ!! それ以上舐めると袋叩きにするわよ』
「望むところだ!」
『言ったわね! 皆殺るわよ!!」
「「「「オォー!!」」」」
「お前等の方がワシを舐めてるだろ!! その怪しい袋はなんだ、本当に袋で叩くつもりか!?」
「あぁ……もうダメだね。無茶苦茶だよ」
人魚の集団は一斉に石であろうジャリジャリとした物が入った袋を取り出していた。
5分後
事を何とか収め、話が戻る。
「"その心配はない"ってどういうことだ」
仙狸の質問に、水龍は微笑を浮かべる。
「そのままの通りだよ。銀水の気配を辿っていたら殺気を感じてね。少し遠回りになったけど、君たちの気配も僕の力で消したし、暫くは勘付かれないだろう」
『……? 何を言ってるの水龍』
意味が解らない。殺気なんて、まるで自分たちが気づかれていたと言っているようなものではないか。
水龍は君には困ったものだ、と言わんばかりの声音で告げた。
「まだ分からないのかい? その娘は<黒蝶>だ」
『…ぇ?』
目を丸くする銀水。思わず咲喜を見つめる。
「気付いていなかったのか?」
『本当なの?』
「あぁ」
静かに、地面へと視線を落とす。
「人魚の<姫>と<黒蝶>が一緒にいれば、その気配に気づかぬ妖がいない訳がない。幸い、今は陽が昇っているからそこまで酷くは無かったけどね」
一歩間違えていたなら。
二人は、襲われていた。
『……ごめんなさい』
「銀水?」
咲喜が初めて、女の名を呼ぶ。
『私…馬鹿だから気付かなくて……私だけ浮かれて…大事なことに気付かなかったなんて』
今まで異常なほど元気だった銀水は、シュンと俯いていた。
「………」
沈黙する咲喜。一体何を思っているのだろう。
「仕方がないではありませんか…人魚は気配を隠すことが出来ないのですから」
『私のせいで大事な命が一つ失われるところだったのよ。仕方がないで済まされると思い?』
「うっ………」
『貴女も人魚なら分かるでしょう?
いつ死ぬかわからない。
明日には殺されるかもしれない。
そんな中、普通に生きることがどんなに難しいことか』
銀水は鋭い眼差しを蓮水に向けると、蓮水は「申し訳ありません」と謝った。
だが。
「……別に、怒ってない」
『……ぇ?』
驚いて咲喜を見れば、穏やかに微笑を浮かべていた。
『許して……くれるの?』
「"こんなこと"で怒るほど私の心は狭くない。それに……なかなか楽しかったしな」
『………!!』
「なんだ、何泣きそうになって」
『咲喜様大好き!! 愛してるっ!!』
「うわッ!? なにするんだやめろ!!!」
ブワッと一気に泣き出したまま銀水は突然のことに焦る咲喜に抱きついた。
きっと、自分には想像のできないほどの苦しみを味わってきた咲喜。
何度も同じ運命を辿って尚、強く優しく在る気高さに。
銀水は憧れを抱いた。
「おい、そろそろ咲喜から離れろ!! 羨ましい!」
「最後本音ダダ漏れだね。僕も銀水をぎゅってしたいな」
「御二方…若干変態的な発言をするのは控えてください。…いい場面なのにっ!」
「蓮水、君なに貰い泣きしてるんだい」
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