暫く走り続け、そろそろいいだろうと止まった。
ふいに後ろを振り返ると
「何故ついて来ている!?」
「いやだって何も言わなかったじゃないですか」
男がついて来ていた。
まぁ確かに言わなかった(いや気付かなかった)自分も悪いのだが。
「いやぁ助かった。女ほど怖い生き物はいないよ」
「……否定できんが」
ぬらりひょんは ん? と眉根を寄せる。
何もかも忘れるために超高速で走っていたはずだ、再び明鏡止水で。
どうして付いてこれた?
「アンタ何者だ? ワシの畏が見破られるとは…」
決して悪い奴ではないようだが、念には念を。
男は爽やかぁ〜に(←これ重要)笑うと、含みのある声音で答えた。
「とりあえずお礼に何か…そうだ、甘味を一緒にどうだい?」
すっかり敬語ではなくなった男。誘っておきながら有無を言わせぬ笑顔であった。
(…胡散臭いのぉ)
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「で、僕は何者かって話だよね」
「何だかんだ言って教えるのか」
拍子抜けだった。
「教えないとは一言も言ってないよ」
漆黒の髪に同色の瞳。先ほどは女が邪魔で見えなかったが成程、確かに整った目鼻立ちの美青年である。
正直言って人間とは思えなかった。
お互いを観察していると、男が思い出したように言う。
「この姿は本当じゃないよ。術で目立たないように細工してるんだ」
「へぇ…それ以前に名前を知らねぇんだが」
変化しているのはうっすら勘付いていた。百鬼夜行の主なのだから当たり前だが。
この男は妖怪なのだろうか。
「僕の名は水龍。水竜の一族の主さ」
「水竜の一族? 聞いたところ立派な集団のようだがそんな奴等聞いたことねぇぞ?」
「だろうね。だって妖怪じゃないから」
妖怪じゃなきゃなんだというのだろう。
「こう見えて僕は神だよ」
「ウソだろ」
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