銀水がぬらりひょんの顔面を蹴り飛ばしてなければ多分まだ目の前に居ただろうし、
そうでなくとももしかして自分が殴りかかっていたかもしれないが、
問答無用で飛ばされたぬらりひょんを若干哀れに思った。
「黙りなさいぬらりひょん!よくも咲喜にそんな事!!咲喜に纏わりついてるだけでも糞猫以上にむかつくって言うのにそんな暴言許さない!咲喜がどんな思いで今の生を生きてるか‥‥、絶対に‥そんな言葉二度と言わせないわ!!」
『‥‥‥』
「咲喜!」
『なん、なんだ?』
「私はあなたと友達になる!嫌ってほど傍にくっついて認めさせてみせるから!私だって殺されるつもりなんて無い!残りの生をどう生きるかは私が決める!もう絶対に‥決めたんだから!!」
銀の髪を振り乱して蒼い瞳が怒りに燃える。
端麗なその顔はどうあっても美しいがどうにもその剣幕に‥‥笑えた。
「な、なんで笑うのよ!蓮水まで!!」
『これは本当に‥お前の言った通りだな蓮水。ははっ、苦労がわかる。』
「ええ咲喜様、本当に。」
「なんなのよ二人して!!」
咲喜に至っては笑い過ぎて涙目だ。
一体何がなんなのか、とにかく自分が笑われているらしいことは間違いようがない。
両手で拳を握って一際大きく叫ぶ、つもりだったのが途中で咲喜の手によって口を塞がれた。
「‥っんー!」
『本当に疎いな、殺気が森全体に広がったのに気付かないのか?銀水。』
言われて集中すれば確かに。
いつの間にこんなに、と思う程に殺気からする妖の数も多い。
『だからここから去れと言ったんだ、こんな結末は予定外だが。手を放すぞ、声を出すな。と言ってももう手遅れか』
「‥‥妖たち、いつから‥」
『私が森に入る前には。黒炎で気を引いて銀水たちを逃がすつもりだったが‥裏目に出たな。』
「それなら先に言ってくれればよかったのに!」
自分だって戦うすべはある。
姫として、強くなければ生き残れない。
なぜ何も言わずにいたのか、逃がすため?それとは別にもしかして戦力外だと思われているのだろうか、
そんな風に捉えられているとしたら妖として、人魚族の姫として心外だ。
「違いますよ銀水様。咲喜様は銀水様の力をご存知です。」
『私と戦うことになったらどうしようかと思った、人魚族の姫を抑える自信などないからな。力のケタが違う。“黒蝶”など人間に毛が生えた程度の力しかないし。』
「‥それならなぜあんな厄介な事したのよ、殺気まで纏って黒炎を操るなんて」
本気の殺気だった。
あの黒い炎はきっと忘れられない。すごく、綺麗だったけど。
「それは銀水様の」
「『性格故に。』」
「わ、私?」
いつの間に意気投合でもしたのか。
咲喜と蓮水は声を揃えて言ったのだった。
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