「全く、女ってのはどうしてこうも事を大きくしたがるんじゃ」


いつから居たのか、急に現れたぬらりひょんは咲喜の右手を掴んだまま顔を顰めた。


『離せ!消えろと言っただろうが!』

「ワシの記憶では“手を出すな”とは言われてないはずじゃが?」

『っこの‥!時間がないと言うのに!』

「今回ばかりは黙認は出来ない、‥‥あんたが傷つく。さっさと本当の事を言っちまえ」

『‥別に、‥話すことなどない。』


何が“黙認”だ。
お前が黙っていたことがあったか?

手を掴まれたままふい、と顔を逸らした。
力を入れても逃げれない。
強く掴まれているわけではないのに、
痛みがあるわけでもないのに、‥‥苦しい。


「本当の事って何?」

「銀水様‥」

「ねえ咲喜、どういう事なの?何でこんな事‥」


確かに楽しい時を共に過ごしたはずだった。
三日間、とても長く感じて今日再び会えることを心から願ってたのに。

何か隠していることがあるなら教えて欲しい。
そんな中口を開いたのは蓮水だった。


「咲喜様、‥もう結構でございます。」

『‥‥蓮水』

「お力添え、感謝いたします。」

『‥‥‥‥、すまない‥』


まさかぬらりひょんが介入してくるとは思わず。
ここ最近大人しかったからまさかここで、と苛立ちつつもどこかでほっとした気持ちに気付く。
非を認めたからかぬらりひょんの力が緩み手を振り解いたが、何故か離れようとは思わなかった。


「蓮水!どういう事なの!もしかして脅したりなんかしたんじゃ‥」

『違う、今朝蓮水に会ってどうするのかと問われた。友として付き合いを持つのかと。』

「‥‥‥答え、は?」

『‥否だ。これは私の出した答え。蓮水は関係ない。』


銀水が俯くのを見て強く胸が痛む。
あの時見せてくれた笑顔はもう見せてはくれないだろう。
それでも、覚悟して決めた事‥
しかしそんなもの関係ないと言わんばかりにやはりぬらりひょんが口を出してきた。


「鬱陶しい!!いちいちぶつくさと遠回りして何の意味がある?」

『意味がどうだと言われたくない、これが最善だ。』

「決めるのはあんたじゃなくて銀水だ、違うか?」


そう言われて言葉に詰まる。
時間など必要ともせずに出した答えだからか?違う。
今でも答えは変わらない。

守りたいと思って、何が悪い。


「銀水様、咲喜様は“黒蝶”から人魚族に繋がる事のない様に敢えてその決断を。」

『蓮水!』

「‥‥私を守るため‥?」

「水龍様がおられても力が及ばないこともございます。黒蝶は絶えず命を狙われる、友として絆を持てば銀水様も‥、死を視るあなた様だからこそ‥。」

「じゃあ‥私は嫌われたわけではないのね、私は‥私はあなたと友達になりたいの。ずっと変わらない、だから‥」

『しかし‥』


下手な輩に銀水が襲われでもしたらどうする‥。
いかに神がついていようといまいち信用がならないあの男。
危険は遠ざけておくに限る。
私の存在は銀水にとって‥‥


「強情っぱりじゃの」

『‥‥は?』

「守る自信が無いのか、矜持ばかりが高く簡単に事を片付けようとは見損なった。」

『な‥に‥‥』

「結局あんたは自分の命が惜しいだけじゃ、銀水の事などどうでも‥‥ッブ!!」


違う!とぬらりひょんに言いかけた口が開いたまま固まった。
それは目の前にいたはずのぬらりひょんが遥か後方へと飛んで行ったからだ。

驚きもする。
なにせ凄い速さと音だった。






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