「ねえ、泉。今日、一緒に帰れない?」
「部活あっから、待ってくれんなら帰れるけど」
「じゃあ、待ってる」
「珍しいな、お前から誘ってくるなんて。何かあった?」
「別に。この前は一緒に帰れなかったから」


勇気を出して泉を誘うと、快く了解してくれた。嗚呼、こんなんならもっと早く素直になってればよかったな。気分麗らかに、私は更衣室へ向かった。

次は体育。8、9組の合同授業で女子はサッカー、男子は体育館でバスケ。あんまりスポーツは得意じゃなくて、ぼうっと突っ立っていた。やる気があるのは、ごく一部の運動部だけ。


「あーぁ、つまんないなぁ」
「その割りには、何か機嫌いいね」
「うん。泉がね、今日は一緒に帰ろうって」
「ふぅん、なるほどね」


今はこの幸せを誰かに自慢したくて。友達に話すのに夢中で、ボールが飛んできてるなんて気付かなかった。


「――っ!」
「え?」


名前を呼ばれて振り返ると、もう遅くて。ぶつかる、そう思って目をつむった。「きゃー!」「誰か先生呼んで!」なんて声が聞こえて目を開けると、私は無傷で。目の前には目を閉じて倒れている彼女が。


「あんたは大丈夫?」
「なん、で…」
「え?」
「何で庇うの…?」


あんたは私が憎くて仕方ないはずなのに、どうして。どうしてあなたはそんなに優しい子なの。