一人で歩く帰り道。泉を待ってたら多分また悲しくなるから。そんなことを考えながら、不意に目に入った第二グラウンドを見ると、練習をしている泉が目に入った。野球をしている泉は誰よりもかっこいい。汗を流して一生懸命に練習をしている姿は、私を一瞬で虜にする。私は、そんな泉を好きになったんだ。

見ていると我慢できなくなってフェンスに近付いた。嗚呼、やっぱりかっこいいな、泉は。


「あ…孝介の彼女さん…」


声がする方を向くと、今一番会いたくない人が立っていた。彼女も練習を見に来たのだろうか。あくまで平常心を保ちながら「どうしたの?」って聞いたら、「孝介の練習してる姿が見たくなって…」と返ってきた。彼女は嘘をつかない。否、つけない。だから泉の彼女である私にも、自分の本心を包み隠さず言う。多分、いや絶対、彼女は泉が好きで泉も彼女が好きなんだ。


「かっこいいよね、野球してる泉って」
「うん…」
「私、そんな泉を好きになったんだ」
「……そう、なんだ」


隣を見ると、悲しそうに目を伏せた彼女。あなただって、さっき私に同じことしたんだよ、とは言えなくて。苛立つ気持ちを抑えて、私は歩き出した。


「もう帰っちゃうの?」
「今日は一緒に帰らないから」


あなたが一緒に帰りたいって言ったんでしょ。だから、泉はあなたを選んだの。泉はあなたが好きで、あなたも泉が好き。でも絶対に教えてあげない。ごめんね、私にはまだ好きな人の幸せを優先する恋なんてできないの。私はまだ、泉を手放したくない。