苛々する。何だよ、いつの間に田島と仲良くなってんだよ。チラリと隣を盗み見すれば、楽しそうに田島と話をしているあいつが。何だか無性に腹が立って、俺は教室を出た。

向かったのは、7組。彼女である、あいつに会うため。俺が好きだったのも、今好きなのも、こいつのはずなのに、どうしてもあいつが気になってしょうがない。ムカつく。自分も、あいつも、気安く話しかけてる田島も。


「あ、孝介」
「…おう」
「どうしたの?」
「別に。顔が見たくなっただけ」
「ふふ、嬉しいな」


そう言って笑うこいつが、すげェ気持ち悪く感じた。最低だって分かってる。でも、少なくともあいつは、自分の感情を素直に伝えたりはしなかった。いつだってあいつは、自分の感情で動いたりはしなかった。いつだってあいつは、自分を優先したりはしなかった。今なら分かる。あいつは、本当に俺を好きでいてくれた。


「ねえ、孝介」
「ん?」
「今日一緒に帰ろう」
「わり、部活で遅くなっから無理」
「待ってるから」
「いや、でも…」
「じゃあ、また放課後にね」


一方的に話を終わらせてあいつは教室の中に入っていった。嗚呼、もう。我が儘言うなよな。マジめんどくせェ。


(そういや、あいつって…我が儘言ったことあったっけ…)


頭の中はもうあいつとの思い出でいっぱいだった。何だよ、気持ち悪ィ。さっさとさっさと消えろよ。こんな感情知らない。こんなもどかしくて、気持ち悪くて、切ない気持ち、俺は知らない。あー、ヤベ。今すげェあいつに会いたい。今すぐあいつを、抱き締めたい。


「――っ…」


あいつと別れてから、無意識にあいつの名前を呼んでいた。無意識にあいつを探していた。無意識にあいつを気にかけていた。無意識に田島に嫉妬していた。

無意識に俺は、あいつを愛していた。