連れて来られたのは、空き教室。HRが始まったこの時間、気持ち悪いくらいに静かだった。表情の分からない泉の背中に、意を決して口を開く。


「泉…?話ってな・」
「何だよ、それ」
「それ?……あっ」


泉の低い声と、さっきの教室での出来事で「それ」を安易に察することができた。思い出すとまた恥ずかしくなって、頬を紅潮させたまま俯くと、ゆっくりと泉は振り向く。


「田島と…ヤッたのかよ」
「ヤッては…ない、けど」
「それって浮気じゃねェの?」
「なっ…」
「何やってんだよ、お前…」


呆れたようにため息をつく泉。泉だって、あの子に告白してたじゃない。私のこと愛してなかったじゃない。私よりいっぱい、浮気らしいことしてたじゃない。
今まで我慢してたものが一気に込み上げてきて全てを吐き出しそうになる自分と、それでもまだ嫌われたくないと思う自分とが、もうバランスを保てなくなって、私の中で何かが壊れた。

初めて見た私の涙に、泉は目を真ん丸にして、組んでいた腕は私の肩へと移動した。でもすぐに目の前はぼやけて、泉の表情なんて分からなくなった。

もう、いいよね。こんなに頑張ったんだもん。私だって、愛される恋愛したいよ。


「終わりにしよ、泉…」そう告げるとさっきよりももっと目を真ん丸にして「…は、何で、だよ…」と言った。声は少し震えてる。何で、なんて。そんなの、自分が一番分かってるでしょ。


「私…泉が好きだよ」
「じゃあ、何で・」
「でも、泉が好きなのは私じゃないでしょ」
「そ、れは…」


泉の腕から、徐々に力が抜けていく。それは肯定、って受け取っていいんだよね。


「じゃあね。あの子と幸せになってね」
「……」


泉の腕をさっと払って、私は教室を出た。まだ、まだだよ。まだ声を出して泣いちゃダメ。最後だけはいい女で終わりたいの。あの子と泉が幸せになったとき、笑顔でおめでとうって言えるいい女になりたいから。だからもう、


泣くな、私。