あなたが想っているのは私じゃないって最初から知ってた。でもね、あなたは私を選んでくれたから。一緒にいれば、きっと好きになってくれるって思ったから。あなたが選んだのは私だって、それだけで今は頑張れる。


「泉、今日も部活?」
「うん」
「そっか」
「…今日予定あんの?」
「ないよ」
「じゃあ、待ってろよ。一緒に帰ろうぜ」
「いいよ、待ってる」


泉と付き合いはじめたのは、つい最近。席が近くてよく話すようになった。その頃にはもう泉は好きな人がいて。直接聞いたわけじゃないけど、泉をずっと見てたから。あの子が好きなんだって、他の子と見る目が違ってた。ダメ元で告白した時も、OKしてくれたけどやっぱり私を見てはいなかった。それでも側にいてくれるなら、私を必要としてくれるなら、それでいい。今はまだ、それで。


「孝介、」
「…どうした?」


ぼうっとそんなことを考えていると、控え目な声で誰かが泉を呼んだ。泉が好きなあの子が。今にも泣きそうな顔で、泉を求めていた。嗚呼、いいな。私もあれだけ素直になれたらよかったのに。二人は寄り添うように教室から消えていった。多分、今日の予定はなくなったな。泉はあの子を優先するだろうから。


「わり、やっぱ今日帰れなくなった」
「大丈夫。私もさっき友達に誘われたんだ」
「絶対埋め合わせするから」


大丈夫なんかじゃないよ。あの子を優先しないで。なんて口には出せない。泉と別れるくらいなら、我慢した方がマシ。泣きそうになるのを必死で堪えて、私も教室を出た。ねえ、泉。私はあんたの彼女でいいんだよね?