朝、目が覚めると同時に田島が部屋に入ってきた。昨日のこと、まるでなかったかのようないつもの眩しい笑顔で。そんな風に笑わないで。じわじわと罪悪感が心を占めていく。そんな私の気持ちに気付いたのか、田島は「昨日のことは俺が悪いんだから、お前は気にすんな」って言った。ねえ、田島。今あんた全然笑えてないよ。

リビングに行くと、田島のお母さんが「朝ごはんできてるよ」と優しく微笑んだ。田島のお母さんは優しい人だな。だから、田島は優しい人に育ったんだね。別に自分の親を否定するわけじゃないけど、こんなに醜い心に育った自分が恥ずかしくなった。

田島と肩を並べて学校へと向かう。最近、泉とも一緒に登校したことがなかったから、とても新鮮に感じた。

教室に入ると、みんなが一斉に私達を見て、そしてヒソヒソと話をし始めた。そんなに不思議なことだろうか。下駄箱で一緒になって教室に来ることだって、よくあることだ。まあ、私の場合違うけど。未だに不思議そうな顔をする私に、田島は耳元で囁いた。


「やっぱ隠れなかったな」
「え?」
「キスマーク」


顔がカッと熱くなった。急いで首筋を押さえる。「どこにつけたのよ、この馬鹿!」と反論すると、田島はニヒヒと笑って、三橋くんのところに行ってしまった。未だクラスの女子は私を見てヒソヒソと話をしている。私のドアの前から動けないままで突っ立っていると、私の前が少し暗くなった。見上げると、これ以上にないくらい眉間にシワを寄せた泉が。怒ってる。理由は分からない。否、分かりたくない。


「話がある」
「……私は・」
「いいから、来い」


無理やり腕を引き、泉はどんどん進んでいく。始業を知らせるチャイムが聞こえる。あーあ、今日は遅刻かな、なんて泉の背中を見ながら思っていた。