「胸…触ってい?」
「うん…」


漫画とかドラマで、よくある台詞。「ハジメテは好きな人と」っていうやつ。私もついさっきまではそう思ってた。でもね、フラれて頭ん中からっぽになったら、そんなのどうでもよくなるんだよ。嗚呼、田島を愛せたらきっと幸せになれるんだろうな。


「何で…そんな顔すんだよ…」
「…っどんな、顔…?」
「すっげー、辛そうな顔」


何言ってるの。田島の方がずっと辛そうな顔してるじゃない。田島はそっと頬に触れて、似つかない悲しい顔をして「ごめん」って笑った。私、田島に泉と同じことしちゃったんだ。ごめん。ごめんね、田島。その辛さは私が一番知っているのに。


「ごめん、田島…ごめん…」
「俺もごめん」
「うん…」
「でも痕は付けたことは謝らねェからな!」
「…え?」
「じゃあ、俺はリビングで寝るから。おやすみ」
「お、やすみ…」


田島が部屋を出ていった後、鏡で首筋を見ると二つ赤い鬱血痕が残っていた。所謂、キスマークと呼ばれるものだろうか。一週間は消えないだろうな。泉は何て言うかな。いや、もう別れてるし気にもしないよね。泉のことを考えたくなくて、布団に潜った。泉とは違う、鼻腔いっぱいに広がる田島の香りが私の涙腺を緩ませた。どうして泉じゃなきゃダメなんだろう。どうして私じゃダメなんだろう。泉を嫌いになりたい。いっそ嫌いになれるくらい酷く捨ててくれればいいのに。優しさは、時として残酷だ。


「い、ずみ…っ、が好き…なのっ…」


泉が手を伸ばす先に私がいられたらどんなに幸せだろう。