「あ…やべ」


ミーティングが終わって、みんなでファミレスにでも寄ろうかと話していた時、ふと覗いた鞄のなかに、明日提出のプリントは入ってなかった。今から戻るのもめんどくせェけど…。気まぐれに取りに戻ろうと踵を返した。

先輩達に事情を話し、戻った校内は運動部の声が微かに響いているだけで、もう残っている生徒はほとんどいなかった。だから、教室にも誰もいないと思って、入ったのに。


「…あれ、見つかっちゃった」


そうお茶らけて言ったあいつの目からは大粒の涙が零れていた。ははは、と無理して笑うあいつの痛々しい笑顔よりも、涙の方に気をとられて。プリントのこととか持ってたエナメルとか全部忘れて、思わず駆け寄った。「何かあったのか…?」とにかく心配で、やっと絞り出したた問いにも「タイミング悪いよ、榛名」そう笑って答えるだけで、あいつは理由を語らなかった。

友達?先生?部活?思い付く理由をすべてあげてみるけど、あいつはただ痛々しく笑うだけだった。

最後に思い付いた理由、それをそっと静かに声に出してみると、あいつは目を見開いてさっきまでの笑顔も消えていた。そして、また大粒の涙は頬を伝う。そしてあいつの口からポツリと言葉が吐き出される。


「今回が…初めてじゃないの。前にもね、何回もあって…もう堪えられないって言ったら、あっさりバイバイだって。何か間抜けだよね、私」


嗚呼、だから言ったじゃん。あんな奴やめとけって。俺の方が、ずっとお前を分かってたのに。俺を選んで、俺を好きになったら、こんな思いは絶対にさせないのに。そんなことは口が裂けても言えなくて。俯いて泣いている隣に座り直して、背中をさすった。「榛名は優しいね」なんて言うこいつは本当に酷い奴だ。そんなこいつを何よりも好きでどうしようもない俺は誰よりも気持ち悪い。

ここで俺に出された選択肢は二つ。友達という壁をぶち破って欲望のままこいつを奪うか、ただ慰めてまたこいつが新しい男を作るのを黙って見ているか。どっちにしろ、こいつが俺を選ぶことはない。だったら俺は…


すっと上げた右手はあいつの頭の上に置いて、ぽんぽんと二回撫でた。


「もう泣くなよ。今日は俺がついててやるから」


野球さえも手につかないほど恋い焦がれたこいつを失う痛みに、俺は堪えられんのかな。多分無理だ。

どうしようもなく弱虫な俺は、今日もこいつと友達でいることを選んだ。














く で も な い










title by 72%の銀河
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十和さまより、榛名に慰めてもらうお話、でした。
心配ありがとうございました!
なんとか乗りきれそうです…
かなりヘタレな榛名ちゃんになってしまいましたが…大丈夫でしょうか(;´д`)?
リクエストありがとうございました!
今後とも色欲共々よろしくお願いしますm(__)m