売れる少女マンガって、大抵は相手に彼女がいて、でも最後には自分に振り向いてくれる、そんな話ばかり。私の恋はまさにそんな状況で。少女マンガの前半部分。まだ相手に彼女がいる場面。


「おはよう、阿部」
「おう」
「阿部ってホント、彼女さんと仲良いよね」
「何だよ、当てつけか?」
「まさか。昨日、ちゅーしてるところ見て思っただけ。」

ずきん

「ああ、アレ見られてたんだ」
「あら、落ち着いてるね」

ずきん ずきん

「別に見られて減るもんじゃねェし」
「そりゃそーだ。あ、彼女さん来てるよ」

ずきん ずきん ずきん

「あ、ヤベ。勘違いされたかも…!」
「いってらっしゃーい」


笑顔で阿部を見送った後、多分私はすごい顔をしてたんだと思う。花井がえらく心配した様子で「大丈夫か?」って聞いてきたし、水谷にいたっては、冷や汗かくくらいビビってたし。だって、ムカつくでしょ。ちょっと話してたくらいで泣いて、勘違いして。また私が阿部と話できる時間が減るじゃん。いっそ別れちゃえばいいのに、なんて。始業のチャイムがなるちょっと手前、満足そうな顔をした阿部が帰ってきた。どうせ、キスしてセックスの一歩手前までしてきたんじゃないの。あー、ムカつく。


「おかえりー、その様子だとうまくいったみたいだね」
「お前のおかげで何とかなったよ」
「嫌味でしょ、それ」


ねえ、今の私、ちゃんと笑えてる?


「あー、私も彼氏欲しい」
「お前ならすぐできるだろ。顔は良いんだし」


じゃあ阿部がもらってよ、なんて口が裂けても言えない。もしかしてこの話、私が主人公じゃなくて、あの子が主人公なんじゃない?そんな気がしてきた。





   
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