電柱の影から、数メートル先のコンビニを覗く私。周りから見たら、私は変な人。そんなことはお構いなしだ。それよりも、大事なことは、コンビニの中。中を覗いて、私は深くため息をついた。だから嫌だったんだよ。ほら、めっちゃ野球部いるじゃん。てか勢揃いじゃない?うわぁ、どうしよ。このまま帰っちゃおうかな…なんて。多分、私お家に入れてもらえない。牛乳を買うまでは。

ことの発端は、1時間程前に遡る。ご飯を食べ終えて、リビングでスルメイカをかじりっていると、お風呂から出てきたお姉ちゃんが冷蔵庫を開けて、あっと声を上げた。


「どうしたの?」
「牛乳がない」
「あー…私がカフェオレに使っちゃった」
「買ってきて」
「え?」
「いいから、早く買ってきて!」


嫌な予感がしたけど、先に生まれた者の権威というやつに圧され、私は仕方なく家を出た。そしたらやっぱり嫌な予感は的中した。なんと野球部がみんなでコンビニに寄っていたのだ。今の私はデニムの短パンにTシャツという何ともラフで露出度の高い格好でしかもそれであって野球部、しかも栄口勇人くんという同じクラスの前の席の彼に会う勇気は私にはない。そして、冒頭へ戻る。早く彼らが去るのを待っているのだが、なかなか帰らない。それどころか、さっきから三橋くんとちらちら目が合っているのだ。三橋くん、お願いだから誰にも言わないでという顔で見れば、三橋くんは泣きそうな顔で小さな悲鳴を上げた。それに気付いたのは、田島くん。


「どーした、三橋」
「た、た、たじ、まく…!あ、あ、あそこ…!」
「んー?…って、誰?」
「……あ」
「何だ、栄口の知り合いかよ」
「あ、うん。まあ…」
「もしかして…彼女?」
「違う違う。同じクラスの奴。そこで何やってるの?」


ばれた、ばれてしまった。栄口くんはどんどん近付いてくるし、野球部みんなの視線が痛い。仕方なく電柱から顔を出すと、栄口くんの足が止まった。そりゃ見るよね。すっごく短いもんね。嗚呼、神様お願いします。私の短パンに丈を。


「こ、こんばんは…」
「こんばんは。こんな時間に何やってるの?買い物?」
「う、うん…牛乳買ってこいって頼まれて…」
「そうだったんだ」
「あ、はは…はは…じ、じゃあね!また明日!」
「待って!」
「え?」
「送ってくよ」
「あっ、ふ、え…?」
「もう遅いし、女一人で帰すわけにはいかないよ」
「だ、だだ大丈夫です!それに、ほら栄口くん、野球部のみんないるし…」
「あ、それなら大丈夫。もう帰るだけだし」
「で、でも…!」


栄口くんって意外に押してくる人だったんだ。どうも引いてくれそうにないので、仕方なく私は首を縦に振った。そしたら栄口くんは満足そうに笑って、早く買ってきなよって言った。買い物を済ませて外に出ると、もう野球部の人は帰っていて、栄口くんだけだった。私に気付いた栄口くんはまたニコッと笑って、行こうかって自転車をついた。私もその横をついていく。ダメだ、何か緊張する。栄口くんは色々話を出してくれるのに、私は上手く返せない。本当はいっぱい話したいことあるのに。なんて考えてたら、もう家の前。


「あ、ごめん…私ん家、ここ」
「そっか。じゃあ、また明日」
「うん…今日はありがとう」
「どういたしまして」
「それじゃあ…」
「あ、それと」
「?」
「あんまり短いの穿かないほうがいいよ」
「え?…あ、ごめん…」


やっぱり見苦しかったかなって思うと、胸の奥が痛くなって、何か泣いてしまいそうで思わず俯いた。そしたら、栄口くんはひどく焦ったような声でそういう意味じゃなくて…と付け足した。


「似合ってたし可愛かったから、他の男に見られたくなくてさ」
「…え?」
「できれば俺の前だけにしてほしいって、意味だったんだけど…」


ぶわわ、と頬が赤くなるのが自分でも分かった。でも、栄口くんも負けないくらい頬が赤かった。そんな顔で「ダメ、かな?」なんて聞くから。思わず頷いてしまった。今よりもっと短パンが好きになれそうだ。





   
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