少女マンガみたいな恋がしたいって、女の子ならみんな思うでしょ?それなのにあの男といったら…「本気でこんなこと言う奴いたら、気持ち悪いだろ」だってさ。頭にきて頭突きしてやったら、本気で怒られた。ムカつく。仮にも彼女なのよ、私。イライラしながらポテチをほお張る私を、苦笑しながら見つめるのは栄口くん。
「でもさ、確かに阿部がこんなこと言ったらさすがに気持ち悪いよ」 「そーお?私は嬉しいけど。試合中にみんながいる前で好きだ、とか言われて見たいよー」 「そういうのはバスケだからカッコイイんだよ」 「野球って不便ー。無駄に広いし、ルール難しいし」 「はは…」
なんて言ってまたポテチをかじると、栄口くんも同じようにポテチをかじった。顔にはお得意の苦笑がまだ残っている。あーあ、私も少女マンガみたいな恋がしたーい。私は大きく伸びをして、鞄からレモンティーを取り出す。キャップを開けたと同時に、教室の扉が荒々しく開いた。そこには血相を変えた花井が。
「おー、花井。珍しいねー、あんたがわざわざ1組までくるなんて・」 「お前、阿部に何言ったんだよ!」 「は?嗚呼、朝の頭突きのこと?まだ怒ってんの、あいつ。心せまっ」 「頭突きしたのかお前…だから機嫌悪かったんだ…」 「それより阿部がどうかしたの?」 「あ、嗚呼…あいつ、急に少女マンガとか読み出したんだよ…しかも、真剣に」
花井の思いもよらぬ言葉に、私はレモンティーを吹き出した。栄口くんは何とか避けたけど、食べていたコンソメ味のポテチはレモンティー漬けにされてしまった。うわ、私の138円返せ。
「あ、あああの、阿部が!?」 「もしかして…結構気にしてるんじゃないの、阿部…」 「な、ないでしょ…あんなに朝、気持ち悪がってたし…」 「そう思うなら見に来いよ」
と、言われてしまったので7組まで行くことにした。ばれないようにしないと、多分私、阿部に殺される。
「で、何で俺まで…」 「138円分は働いてね」 「はあ…(見つかったら俺も怒られるのかなぁ…)」
そうっと教室を覗くと、阿部の背中が見えた。珍しい、起きてる。ってか、マジで少女マンガ読んでる!怖い!
「あ、阿部…そんな趣味あったんだ…」 「黙れ、クソレ」 「ひどっ」 「なあ」 「んー?」 「こんな告白のどこかいいわけ?意味わかんねェ」 「分かってないなぁ、阿部は。女の子はロマンチックなシチュエーションにときめくんだよ」 「大勢の前で告白すんのがロマンチックなシチュエーションか?」 「うーん……?」 「大体、頭突きする女が少女マンガみたいな恋を夢見るなっつーの」
「……気にしてるみたいだね」 「うん…、頭突きもね」 「はは…」 「私、やっぱり少女マンガみたいな恋はいいや」 「どういう心境の変化?」 「阿部に十分愛されてるって分かったから。それだけで何か幸せだし!」 「……(138円分って惚気のことだったんだ)」
ああ、俺も彼女欲しいな、なんてしみじみと思う栄口くんなのでした。
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