utpr fiction | ナノ

「嶺二?」

寮に帰って最初に見つけたのは嶺二だった

随分と静かにソファーに座っていたのがなんとなく気になって声をかける

まあ周りに誰もいないのに騒いでたらそれはそれで引くけど

「あ、名前おかえり〜」

「うん、ただいま」

へらっと笑う彼からはいつものような元気が感じられなくてなんとなく隣に座ると彼は意外そうに、男にしては大きめな目を丸くさせた

「どうしたの」

「え、何が?」

「なんかショボンとしてたから」

「え!?」

「あれ、違った?」

「あー…いや、ショボンというか」

うーん…
なんて唸っちゃって

珍しくペラペラと喋らない嶺二の口がやっと開いたと思えば

「俺、孤独死するかもしれないなあって…」

なんて、出てきたワードと言葉に思わず固まった

え、こいつなにいってんの?

「あれだ、孤独死のニュースでも見たんでしょ。」

「違う違う、友達から結婚式の招待状きてさー」

「おめでたいじゃない」

「そうなんだよ!」

いきなり立ち上がった嶺二に思わず肩がはねる

そんな私を気にもとめずに小学校からの友人だと思い出話をペラペラ話す彼

相変わらずのテンションに吐き出そうとしたため息は、徐々に小さくなっていく声に気づき途中で留めた

「ぼく、アイドルでしょ」

「うん」

「恋愛禁止でしょ」

「うん」

「だから…」

「だから?」

「将来は孤独死かもしれないって…!!!」

深刻そうな顔でそう言った嶺二に私は思わず真顔になる

いや、うん、でも孤独死て
短絡的すぎないか

まあ確かに恋愛禁止だと結婚できないわけで、つまり家族を作ることはできないんだけど

「大丈夫だって、嶺二すごい友達いんじゃん」

「友達じゃだめだめー!ぼくが死ぬ時に手を握っておやすみって言ってくれる人がいいんだもん」

「なにそれ古い…」

「え、古い?」

「ていうか男がもんとか言うな」

「だってー」

にしても嶺二が孤独死…それはちょっと嫌だなあ

太陽みたいに明るい笑顔に私は何度も助けられたから、最後も笑っていてほしい

なんて思って隣に座り直した彼を見ると唇をとんがらせて拗ねていたため思わず溜め息を吐く

「あ、何その呆れ顔」

「呆れてるからね」

なんて言ってみたけど、別に呆れてはいない

ひっどいなあ
なんて言いながら頬を膨らませた嶺二に、少し賭けにでてみようかなんて

そんなことを思った自分に呆れそうではあるけれど

「もしもの話ね」

「ん?」

「嶺二が引退して、その時にいい人がいなかったら」

「いなかったら?」

「私が一緒にいてあげる」

「名前が?」

「うん」

私の顔を見て考え込むように手を顎にあてた嶺二は、すぐにこちらを振り向いた

「じゃあぼく、今からプロポーズの言葉考えとかなきゃ」

「いや、いい人いなかったらって言ったじゃん」

「いーからいーから!披露宴では名前が作った曲を2人で歌おう、嶺ちゃんとの約束!!」

「…あのねえ……」

数分前の沈んだ顔が嘘のように鼻歌でもうたいだしそうな笑顔の嶺二

彼はこの約束を数年後、数十年後も覚えていてくれるのだろうかなんて、自分のものとは思えない考えを胸に私も笑った



マリアージュ・ソルフェージ
願わくば、君と共にある未来を

13.06.03