くそったれ、虫歯が痛い | ナノ

 お互いの受験番号を確認して、お互いに「おめでとうございます」と頭を下げた。私と黒子は無事に受験戦争に勝った。勝利を手に入れた。
 バーバーリーのマフラーで口元を隠して、ブレザーのポケットに入れておいたカイロを握る。「転びますよ」なんて親みたいな注意をしてくる黒子に「大丈夫、大丈夫」と笑った。マジバへの距離を、私たちは並んで歩いた。
 街はピンクや赤やハートの模様でうめつくされている。この街並みを二人で歩くのは少しだけ気まずいなぁと思ったけれど、私と黒子にそんな気遣いは無用だと、思い直した。
 私に誠凛を勧めてくれたのは黒子だった。退部届を出した後、私は友達と遊び呆けていた。灰崎には会わないようにしようと思っていたのだ。彼に弱いところはもう、見せたくなかった。黒子はそんな私の肩を掴んで「名前さん」と呼び止めたのだ。「誠凛に行きましょう、一緒に」と、いつものように何を考えているかわからない目で。
 バレンタインかぁ、と呟いた言葉に黒子が少しだけ笑った。

「……名前さんと僕には無縁ですね」
「安心してよ、コンビニでチロル買ってあげるからさ」
「じゃあ僕はピノ買ってあげます」
「アイスじゃん、それ」
「好きでしょう、ピノ」
「好きだけどさ、ピノ」

 黒子と並んで歩くのは好きだった。色素の薄い水色の髪の毛を見上げるのにも、もう慣れてしまった。灰色でも金色でもない水色。
 高校生活を、水色に染める覚悟は、ずっと前からできていた。私は息を吐いて、カイロを握りしめた。またやってくる。バスケに染まる生活が。彼らとの、戦争が。

13.03.09 / 忘れられないから