お話 | ナノ

※ ごめんなさい。下品なママ知らシリーズ。


 桃井さつきで抜く事なかれ。
 帝光中学校男子バスケットボール部の裏基本理念。これを破ったものは強制退部というきつい仕打ちが待っている。そのいい例があの灰崎祥吾である。彼の供述はこうだった。

「この間ダイキに貸してもらったマイちゃん使ったんだけどなかなかイケなくて、ダイキって言えばサツキだなーって思ってあの顔と胸を思い浮かべたんだよ。そしたら三こすり半でフィニッシュだったんだけど。やばくね?」

 後ろに黒子テツヤという影が居るとも知らず他の部員に熱弁していた彼は、後に赤司の手によってバスケ部を追い出された。ちなみにこれは自己申告制なので、たとえ彼女を使いマスをかいても言わなければ強制退部にはならない。けれどみな、彼女の優しい笑みを見ると罪悪感で胸がいっぱいになり、退部届を出すしかなくなるのだ。
 彼女はバスケ部のサンクチュアリだ。それを己の欲望で汚すなど言語道断。
 だがしかし考えてみてほしい。この部には、私もいるのだ。だが裏基本理念に私の名前はないし、むしろ私はその裏基本理念を知っているのだ。はてどういうことだろうか。つまりはこういうことだ。
 赤い目が猫のように細められる。

「お前なんて胸と膣のある男みたいなものだからな」
「なんてこと言うの!!!!」

 我が部の主将は私に対して容赦無さすぎて困るどころか死にたくなってくる。愛情の裏返しにしてはひどすぎる。
 今日、さつきは委員会の集まりがあるとかで部室にはいない。彼女がいたらこんな話はできない。サンクチュアリだから。
 赤司の目の前に私が座り、私の隣には青峰がいる。他のメンバーは自販機まで飲み物を買いに行っている。この空間にこのメンツってすごく息がしづらい。青峰は飲み終わったジュースのストローを噛み、ぷらぷらと紙パックを操っている。

「俺はさつきじゃ抜けねーわ。母親レベルだし」
「あー……幼馴染ってやっぱりそういうモンなの?」
「まぁ、あいつは特別うるせーしな」
「ふーん」

 たしかに母親では抜けないし、抜けたとしたら近くにはいたくないな。赤司くんは腕を組んだまま「考えたら退部だよ」と笑っている。青峰はガジガジとストローを噛んだまま「きもいわ」と苦笑した。男の人は大変だなぁ。女子中学生は、性欲なんてものは皆無といっていい。

「でもさ、さつきって美人だし胸大きいし、女でもいいなぁって思うから……灰崎の気持ちもわからなくもないよねぇ」
「え、お前レズ?」
「そういうこっちゃねぇよ」
「俺はお前たちがレズでも構わないよ」
「だから違うわ!」
「でもな、美人ならいいってモンじゃねぇんだよ」

 やけに真剣な声色に、赤司くんも表情を引き締めた。青峰が紙パックをテーブルに置いた。そして私の目をじっと、まっすぐと見つめる。なんだかよくわからない緊張感が部室内に漂う。なんだ、この空気、まさか、青峰……?

「顔面シャワーはちょっとブスなくらいがエロい」
「ふざけんなよ!?」

 赤司くんも赤司くんで大きく頷いてるよ! それも一理あるなじゃねーよ! 一理ねーよ!
 いたいけな少女の純情を弄びやがって。インポになれ。ちくしょう、と小さく悪態をつくと、隣の青峰が背中を優しく叩いてくる。

「まぁ、ちょっとブスだから。そこまでブスじゃねーから」
「そこじゃねぇよ!? 妄想でも顔面シャワーされたことにむかついてんだわ!」
「別に減るもんじゃねーだろ」
「減ったわ! 私も清らかさとHPとMP全部減ったわ!」
「処女なら清らかだ。安心しろ」
「赤司くんナニ言ってんの!?」

 もうやだこんな部活。机に突っ伏しで涙を流していると、頭を撫でられる。その優しい手つきに顔をあげると、赤司くんがアルカイックスマイルで私を見つめていた。ああ、こんな綺麗な顔で、処女とか言っちゃうんだ。そんな風に考えたら、流れていた涙は止まった。

「まぁ、俺達はお前に感謝してるよ」
「たまに履いてる水色レースのパンツ、あれ俺好きだぜ?」
「ワイシャツから透けて見えるブラも好ましい」

 まじでインポになればいいのに。鼻水と涙で、机の上はびしょびしょ大洪水だった。

13.02.14