お話 | ナノ

 いつものように水戸部先輩とコガ先輩が二人でシュート練をして、伊月先輩と主将が作戦会議、その他も各自練習していた。作りたてのドリンクを降旗や黒子くんたちに配って、邪魔になった長い髪の毛を高い位置でくくった。わらわらと先輩たちもドリンクを取りに来た。木吉先輩とカントクは少し遠くでなにやら話し合っていた。こうやってみると、アホな木吉先輩もしっかりものに見えるなあと思っていると、火神に肩を叩かれた。

「マネージャー、首の後ろんとこ虫さされてんぞ」
「はぁ、虫さされ?」

 目をぱちぱちとさせた火神に大きな声で返事をすると、主将が眉を寄せ、私に近寄った。「ムヒありましたっけ」なんて悠長に水戸部先輩に問えば、カントクの隣にいた木吉先輩が「あ、やべ、」と大きな声で言った。体育館の空気が凍りついたのがわかった。私と見つめ合っていた水戸部先輩の顔が、気まずそうに歪む。主将は私の『虫さされ』を見ずに、木吉先輩へと走りだした。カントクも持っていたバインダーで彼の背中を思いっきり叩く。

「なにやってんだお前は!」
「外周行ってこい!」

 火神はそんな三人を見て何だ何だと首を傾げていた。帰国子女なのにピュアで困る。黒子くんは黒子くんで、絆創膏かしましょうか、なんて声をかけてくれた。同級生二人のギャップに少しだけ目眩がしたのだった。

「なんか、一気に生々しい空気になったな…」

 降旗の一言に、ごめんとだけ謝った。本当に虫さされです、なんて今更嘘も言えない空気。水戸部先輩が優しく頭を撫でてくれた。

「見えるところにはやめてっていつも言ってるのに」

 私のつぶやきに、火神だけが首を傾げていた。

12.07.31