お話 | ナノ

 最近、なにをするにもヤル気がでない。退屈な毎日。中学から高校へ上がったときはそれはもう嬉しくて、学校終わったらカラオケだとか友達の家に遊びに行くだとか、憧れのふたつ上の先輩を見にグランド、または体育館へ、なんて。今思えば忙しい毎日だったなぁと思う。それに引き換え、なんだこのスケジュールは。色気がないにもほどがあるだろう。バイトバイトバイトバイト。店長はどんだけ私のことが好きなんだよ、とため息と一緒に吐き出した。携帯のスケジュール機能を閉じて、スカートのポケットに突っ込んだ。中庭に設置されているベンチは居心地がよくて好き。誰もこない。背もたれに預けていた背中をズルズルとよこにすべらし、ベンチに寝そべった。もう一度大きく息を吐いた。つま先だけが地面につく。ちょっとつらい体制だけど、今は横になりたい。お弁当を食べたあと、昼休みは彼氏のとこに行くと言いだした友達のことを思いすこし拗ねる。そのせいで私は一人でベンチで寝ているのだ。生ぬるい風が前髪を持ち上げた。ああ、もうすぐ夏になる。

「スカートの中身が見えそうなのだよ」

 足元から投げかけれたその声に、わたしは首を上げた。ベンチの隣にクラスメイトの緑間真太郎が立っていた。

「あーミドリマン」
「正義のヒーローっぽく人を呼ぶのはやめろ」
「バスケ部のヒーローじゃんか」

 一年のときも同じクラスで、気がつけばよく話すようになって、仲良くなった。彼はたしかにかっこいいけれど、すこし変な性格なのであまり女子とは仲良くなれないらしい。それを高尾から聞いたときは腹を抱えて笑ってやった。残念なイケメンとは、こいつのために作られた言葉だと思った。私は上体を起こし、もう一度ちゃんとベンチに座った。するとなにを考えているのかわからない緑間は、わたしの隣に腰掛けた。

「なんとも思わないのか」
「んー?」
「スカート、中が見えても」

 くいっとブリッジを押し上げながらそっぽを向く彼に、すこしだけ笑った。照れてるのか、こいつは。

「ここに来るのなんて、私と緑間くらいだよ」
「俺に見られるだろう」
「別に、緑間ならいいよ」

 自分が思っていたよりも優しい声が出た。それに自分でも驚き、目を伏せた。足元のみるとはるか向こうにつま先をおいている緑間のローファー。私のローファーとならぶと、大きいのがよく分かる。私の身長はちょうど平均くらいだけど、緑間とは頭二つ分身長が違うしなぁ。足も大きいはずか。すこしだけ眠くなって、彼にもたれかかるように身体を横にずらす、すると、肩よりもすこし低いところに頭があたった。上半身よりも、足が長いんだ。うらやましいなぁと思いジト目で彼の顔を見あげれば、綺麗に整った緑間の顔。

「みど…?」

 いつになく真顔で。眉間にシワも寄っていない。こんな緑間の表情は大変マレなのだ。それはもう、高尾がじゃんけんで緑間に勝つくらいには。どうしてそんな表情をしているのか理解できなくて、心臓がドクドクと速くなる。

「あまり無防備なのは関心しないな」
「え?」
「好きな女子がそんな格好をしていると、いくら俺でもストッパーが外れるかもしれないのだよ」

 彼はテーピングの巻かれた手でわたしの頬をするりと撫でた。そして顎を持ち上げられる。視界いっぱいに、緑間の優しい笑顔が広がる。ああ、だめだ。

「みど、」
「返事は、Yes以外受け取るつもりはないのだよ」

 私も、Yes以外言うつもりはないのだよ。

12.07.06