お話 | ナノ

 女は細い喉を晒し、ゆらりと腰を揺らす。顔は快感に染まり、漏れる声を抑えようとする。

「ゃ、ぁん…ん…!」

 男は腰を打ち付ける。顔は、見えない。青峰がごくりと喉を鳴らした。

「まじやべーな…」
「やばいスね…」
「これはなかなかですね」
「うん…そっか…なんで私もここにいるんだろう」
「俺が連れてきたからだしー」
「そうだね早朝から電話して駅まで呼びつけたの君だね」

 AV鑑賞会in黄瀬の家。私と紫原はソファーに座り、黒子くん、黄瀬、青峰、緑間(何故かこいつも来た)はソファーを背もたれするようにカーペットに座ってテレビを見ている。あぐらをかく緑間なんてレアすぎてさっきから携帯が手放せない。シャッターチャンスは今だけ。一度だけではない。連写である。私の隣に座り、何故か腰を抱いている紫原に「いい加減やめなよ〜」と静かに怒られた。マナーモードカメラだから緑間にはきづかれてないよ!

『ぃ、いやぁ、っあ!』
「もう嫌だ…しかもごめん勘違いだったら申し訳ないなぁってか恥かしいんだけどさ一つだけ聞いてもいいかな淳くん」
「なーにー」
「なんでこのAV女優のを買ったのか聞いてもいいかなこれ紫原のだよねそう言ってたよねなんでこれ買ったの」
「名前ちんに似てたから」
「やっぱりかざっけんな紫原死ね」
「じゃあ死んでくる」
「ごめん生きてごめん」
「黙れ二人まとめて殺すぞ」
「はい…」
「ミドチンこっわ〜」

 逆光メガネの怖さプライスレス。しかしBGMは劈くような喘ぎ声。盗撮モノってあたりに紫原の趣味が見え隠れしている。なんだか黒子くんも楽しそうに見ているし、思春期の息子が大人になっていくのを見ているお母さんの気分である。緑間もこういうの見るなんて。お母さん泣きたいわ。
 紫原は私の腰にまわしていた腕に力をこめた。どうかしたのかと見上げると、紫原はテレビをガン見。ねぇなんでここに呼ばれたの私。

「やべぇ俺トイレ行きてぇ」
「ちょ、まじ勘弁してよ青峰っち!あとの人のこと考えて!イカくさいトイレとか嫌っすよ!」
「お前は私の立場を考えろ殺すぞてめーら!」

 ぎゃーすと大きな声で威嚇すれば、欲望に塗りつぶされた黄色と青のオオカミが私を睨む。所詮うさぎ、いや、リスのような私にしたらそんな二匹の猛獣は恐ろしすぎて。紫色のぬりかべに抱きついて身を隠す。

「オナるなら外でして警察に捕まってちょーだい」
「あぁ、名前っちの口からオナるとか興奮するっす」
「気持ちが悪い!!!!!」

 サブイボが身体中にあらわれ、変態から身を守ろうと脳が働き出す。紫原の服を掴んで黄瀬を殺してと頼んでみるけれど、彼はテレビからいっさい視線を外さない。何回も見てるんでしょう今は私を助けろよ!!!

「わかった、黄瀬と青峰がセックスすれば二人の欲望は解き放たれてフライアフェイできるでしょ。解決だわ、真面目に不真面目解決キセキだわ」
「名前ちんきも〜」
「私は黒黄とか青黒のが好きなんだけど「死んでください」…ほら、こう言われるから」
「オレ名前とはヤれねーけどテツとならヤれるわ」
「さらっと私をディスるなわたしもお前とヤれねーよバイブ突っ込むぞ」
「名前ちん持ってんの?」
「いや緑間とかラッキーアイテム対策に持ってそうじゃん?」
「俺が貸すわけないだろ」
「持ってんのかよ!」

 どうやらAVも終わりを迎えるらしく、女優が絶頂が近いと訴えている。が、もうどうでもよかった。緑間くんがバイブ持っているその事実だけが私を苦しめる。眼鏡はずしたら鬼畜になるとか、そんな展開あったりするのだろうか。もしくは黄瀬が眼鏡かけたら鬼畜とか。あぁ、いやだなそんなモデル。

「てかさぁ〜」
「なーに紫原くん」
「名前ちんて処女?」

 テレビの中の女優が、大きな声をあげて果てた。私の顔に突き刺さる五つの視線がナイフのように鋭いのだけれど。なんかゾーン入ってないかみんな。

「童貞に教える義理はない」

 わたしの言葉に、みんながそっと涙を飲んだ。きっとしばらくおとなしくなるだろう。ヴヴ、と、携帯が震えた。開いてみると赤司くんからで、「処女じゃなかったらオヤコロ」と書かれている。どっから見てんのあんた。DVDを再生し終わったテレビが、真っ黒になり部屋は静寂に包まれた。


12.08.24