お話 | ナノ

:くだらないお話、下ネタ

 部室は暑い。そしてじめじめしている。三ヶ月に一度掃除をしなければならないのは、レギュラーのせいなのである。私物を大量に持ち込むからだ。さつきちゃんは委員会で遅くなるらしく、ここには私と紫原、青峰、緑間の四人だった。黄瀬はモデルの仕事があり、黒子と赤司様は用事があるらしい。まとわりつく髪の毛をポニーテールにして、Tシャツのすそをまくりあげて青峰のエロ本と格闘する。黄瀬のロッカーからはコンドームが一箱(残り僅か)が出てきたので捨ててやる。ちなみに個人のロッカーを勝手に掃除するのはいかがなものかと思う紳士淑女のみなさま、一つだけ言おう。これは、赤司様からの命令なのだ、と。抜き打ちロッカー掃除は今に始まったことではない。わかっているのにここにゴムを置いていくのが悪いのだ。ベンチの下から出てきた月バスを棚に戻し、挟むように隠されていた『おっぱい天国』をゴミ箱へシュート。綺麗な放物線を描いてバサリと落ちた。マネージャーなのがもったいないくらいなのだよ、と脳内の緑間が褒めてくれた。青峰は崖に立たされたような顔をしている。

「俺のおっぱい天国がー!!」
「黙れ青峰、命とおっぱい天国、どっちが大切だ!」
「紛いなりにも女なのだから大声で下品なことを言うな!」
「緑間はいいのかよ、俺らの癒しだったろ!?」
「俺も見ていたような言いがかりはやめろ!」
「え…緑間、君だけは信じてたのに…!」
「だから見ていないと言ってるのだよ!」

 ぎゃーぎゃーと口を動かしながらも手を動かすのは忘れない。昼休みに、今日は部室を掃除してくれ、君に任せたからね、と言った赤司様の笑顔が脳裏に焼き付いているからだ。『わかってんだろうな俺が来るまでに終わりにしてなかったら殺すぞ』のニュアンスが私にはばっちり聞こえた。聞こえまくった。
 視界の片隅でうごめく紫原は、まいう棒を口に突っ込んだまま私を見ていた。私はまた出てきた『調教の手引き』という真っ黒なエロ本を投げた。これは赤司様のなんじゃないかなぁなんて思ってしまったけれどきっと黄瀬だろう。ちょっと、休憩、と一人床に座った。青峰と緑間は、二人で青峰のロッカーを掃除している。あちー、とTシャツをぱたぱたはためかせ、一向に手を動かそうとしない紫原を見つめていると、サクサクとまいう棒を食べきった。そして、いつもの抑揚のない喋り方で言った。

「ねーねー、えっちしたい」

 はて。
 今この目の前にいる巨人兵はなんて仰ったのだろうか。私には聞き取れなかったようだ。紫原は手にしていたまいう棒の包みを投げ捨てた。いやいや今掃除してるんだってば。そういうと、まるで試合中のように目を輝かせ、ゆらり、動く。放心状態の青峰と緑間と私は、その様子をじっと見ていた。

「だめー?」

 床にすわった私の肩を推し、馬乗りになったところで青峰と緑間の意識が戻ってきた。…はて。どうしてこうなったのだろうか。

「紫原、私と君は、付き合ってないよね?」

 その問いにそうだねぇと間延びした声が鼓膜を揺らす。そうですよね、と私が言うなり、青峰が絶叫した。そして緑間も顔を真っ青にして震え出す。

「ななな何をしているのだよ紫原!」
「なにって、ナニ」
「そーゆーこっちゃないのだよ!」
「いきなり掃除中に欲情するなよ何でだよお前菓子食ってただけだろ!?」
「だって汗ばむうなじとか白い太ももとか見てたら我慢できねーし」
「できねーし、じゃねぇんだよ! さすがに俺も止めるわアホか!」
「だいじょーぶ、黄瀬ちんのコンドームはあるし。まぁ俺でけーし入るかわかんないけどー」
「ねぇ私を押し倒しながらの下ネタやめてもらえる!?」

 頭上で一括りにされた両手は動かすこともできず、私の横に立ち紫原を止めようとしてくれている二人になんとかしてくれと叫んだ。

「暑さで頭ビッグバンしたの!?」
「いやーいつも思ってたし」
「問題発言だよ! 助けて赤えもーーん!!」

 力の限り赤えもんに助けを求めると、勢いよく部室の扉があいた。え、まじで。そこに立つのは枝切りばさみを持った赤司様と、呆れたように無表情な黒子様だった。

「敦、そこからどかないとお前のご立派なまいう棒を切り落とすぞ」

 絶対零度の眼差しに、青峰と緑間は卒倒し、私はうっすらと涙した。助けてもらったはずなのに、すげー怖い。紫原は私の上から退却し、綺麗に土下座した。

「あ、ありが、」
「ところで、どうしてまだ部室が片付いていないのか俺に説明してくれるか?」

 あゝ、死んだ。

12.07.26