お話 | ナノ

 生物準備室。名前から察しがつくように、学校の隅にあり暗くじめっとした空気が漂う空間だ。準備室とは名ばかりで、物置とかしている。新設だから、どこもかしこも綺麗である。それなのにこの空気。生物準備室という名前のせいだろうか。この教室は、生徒はもちろん先生すら立ち入ることも、この準備室の前を通ることもない。一階の隅。体育館通路が近いのでよく笑い声などが聞こえてくる。大きい机に、並べられる木製の椅子。その机に腰掛け、椅子に足を乗せて読書に昼休みをつかっている、彼女。言うなれば逢引。バスケ部の人たちも、まさか自分に彼女がいるとは思ってもいないのだろう。もっとも、顔を合わせればバスケの話しかしないので、この手の話題になったことなどない。自分から言うような話でもないだろう。ドアをしめて、彼女が足を乗せている椅子の隣に腰掛ける。ギシリ、木が鳴る。

「なにを読んでいるんですか」
「ペンギン・ハイウェイ」
「それ、好きですね」

 手に持っているハードカバーの本は、彼女がいつも手にしているもの。何回読んでも面白いんだよ、と笑う彼女も何度も見た。気に入ったのは、次に気に入る本がでるまで読み続けるらしい。紺色の靴下から伸びる白いひざ、太もも。短いスカートのせいで、彼女を隠す薄い布すら見えそうだった。何度言ってもスカートを長くしてくれない。他の男に見られたら、なんて。嫉妬と独占欲に塗れる僕を、彼女は楽しそうに見ている。すべて彼女の思い通りなのだ。

「テツヤくん」
「なんですか?」

 彼女は手招きをして、僕を呼ぶ。なんですか、なんて聞かなくてもわかることだ。僕は立ち上がり、机に手をついて彼女にキスをする。ちゅ、ちゅ、とリップ音と彼女の息が教室にあふれる。薄くあけられた唇に、舌を差し込んだ。彼女の頭を抑えるように掴んだ。ぬちゅり。ぴちゃり。脳に直接響く音。

「テツヤ、くん」

 キスの合間に名前を呼ばれるのが、たまらなく好きだ。彼女の瞳に映り込んだ自分の顔が、ギラギラとしていて笑いそうになる。余裕なさそうな顔。舌を絡めながら彼女の白く綺麗な太ももを撫でる。彼女の息がいやらしく跳ねる。内腿をつつつ、と指でなぞると、咎めるように名前を呼ばれる。仕方なく唇を離すと、頬を赤く染めた彼女に睨まれる。

「お昼休み、終わる、から」
「今更でしょう」

 ちゅ、と軽くキスをすると身をよじられる。さぼっちゃいません?囁くようにいえば、彼女が反論出来ないことを知っている。僕が彼女を好きなように、彼女も僕が好きだから。スカートの中に手を入れて、足の付け根を指でなぞる。薄い布に人差し指をさしこみ、軽く引っ張った。テツヤくん。赤らんだ頬と潤んだ瞳。僕の肩を押す彼女の手を、後ろにつかせる。

「睨んでるつもりですか?」

 逆効果ですよ。
 かぷり、耳に噛み付くと彼女が可愛らしい声をあげた。なにをしても煽るだけ。遠くから、女生徒たちの笑い声が聞こえる。目をかたく瞑る彼女のまぶたにキスをする。いただきます。薄く開かれた彼女の瞳は、欲に塗れていた。

12.07.16