星屑ステーション | ナノ


▼ おさないおとな




社会人になって、五年と半年になる。去年はなにかと予定が詰まっていて帰れなかった故郷に帰ってきた。
電車を乗り継いで、むかしはよく利用した無人駅におりた。車窓から見える景色は変わっていたが、この駅だけは時間から忘れ去られたかのようにむかしのままの姿でそこにいた。

「あっちぃな…、東京ほどじゃねえけど」

ヒートアイランド現象、恐るべし。あのコンクリートにまみれた都会に比べれば見渡すかぎり水田が広がるこの地は随分涼しいと思える。
スーツのジャケットを脱ぎ、シャツもがっつり腕まくりした。準備ばっちし、とスーツケースを持とうとしたとき、鈴を転がしたような笑い声が聴こえて振り返る。
そこにはお互いに寄りかかるようにして歩く二人組の女子高生がいた。制服は、隣町の女子高のものだ。以前、幼馴染が通っていた進学校の生徒だろう。
その笑い声に背を向けて歩き出した。
あいつ、元気にしてるかな。
目を閉じて思い描くのは幼い頃に隣で見つめた横顔だった。
「なんか、ぜんっぜん進んでねぇ気がすんだけど…」
いつまで過去に浸ってるつもりかっての。ぐっと顔をあげて空を仰げば灰色の曇天だった。
しけてんなぁと小さく舌打ちすれば、ぽつりと水滴が頬に落ちた。雨と認識するやいなや、勢いを増してザアザア降りになってきた。
うっわ、サイアク。
スーツケースをごろごろ転がして走る。夢中になって走っていると、よく通った図書館が見えたのでひとまずそこに駆け込んだ。



濡れたまま図書館に入るのもはばかられるので、入り口に突っ立ったままぼんやり雨を眺めていた。
俺は天気予報なんて見ずに家を出てしまうタイプのわんぱく少年だったから、雨のときはあいつの傘に入らせてもらってたっけ。三つ子の魂百までとか、よく言ったもんだなぁ。



入り口の自動ドアから、司書らしき女性が出てきた。傘が何本もささった傘立てを運んでいる。傘立てには手書きで「持ち主不明の傘、貸し出します」と書かれていた。よっこらせ、と言って傘立てを地面に置くと、彼女はこちらをむいた。一つに束ねた黒髪が揺れる。顔を見て、彼女が目を見開いたのが見えた。俺もきっと同じ顔をしていただろう。
目があった瞬間に、わかった。彼女は、もう何年も顔を合わせていなかった幼馴染に間違いない。



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