くろいかみ


 こんにちは。また話を聞きに来たんですね。思い出してしまうので、私はそんなに話したくないんですけど。……ああ、あの子のことですか?そこにいますよ。この前だってそこにいたでしょう?……そんなことよりはやく別の話をしてくれ?……はぁ、わかりました。でも、この前と同じような話ですよ?
 確かそれが起こったのは、私があの子のことに気づいてから少しした頃の夜だったと思います。思い返してみれば、あの日は少し不思議なことがあったような気がします。買い物に行く道の途中で、道路の端で店を出している占い師の人から憐れまれたりだとか、いつもは忘れないエコバックを忘れてしまったりとか。今になってみれば、あれは前兆だったのかもしれませんね。
それで、えぇっと。……ああ、そうそう。買い物を終えてすっかり暗くなったころ、なんだか誰かにつけられているような気がしたんです。よくありませんか?突然、誰かにつけられているんじゃないかって錯覚してしまうこと。まあ、実際は自分のカバンが音を立てていただとかで、勘違いが大多数なんですけどね。それで、例に漏れずつけられている感覚は錯覚だと思って、特に後ろを振り向きもせず歩いてたんです。そうしたら、すぐうしろでくすくすと笑い声がきこえて。……道には誰もいないのに、おかしいですよね?それで、怖くて。私、すぐに振り返ったんです。そうしたら、そう。黒い着物を着た女の人がいました。まわりはもう真っ暗で、暗闇の中に溶けてしまいそうなほど存在感は希薄なのに、当たり前のようにそこにいたんです。街灯に照らされて、佇んでいたんです。私、何秒間か脳がショートして。それで、少しの間動けなかったんです。嫌な予感がしたのに動けなくて。どこか他人事みたいな感じでした。妙に冷静になって。だから、それで気づいたんです。濡れたように黒い髪が、彼女の顔をカーテンみたいに隠していたんです。顔が隠れているから余計不気味で、彼女が何を考えているのかもわからないんです。そうして、いろんなことを考えているうちに少しずつ彼女が私に近づいてきて、息がかかるまで近くに顔がきて、私の顔に、黒い髪が、雨みたいにかかって。くすくすって、笑ったんです。殺される、と思いました。いいえ、確信しました。だから、せめて痛くありませんようにと心の中でひたすら祈りながら目を閉じました。そして、
……また、大丈夫?って聞こえたんです。遅くなってごめんね、ケガはない?って。考えなくてもわかりました、私はまたあの子に助けられたんだって。声が聞こえたときに、彼女の気配は消えていました。声を出して
お礼を言いたかったんですけど、また声が出なくて。ありがとうと心の中でお礼を言いました。あの子は、君が無事でよかった。と言ってくれました。
……これでこの話はおしまいです。……続き?ああ、お恥ずかしい話なんですが、実は本当に私は助かったんだと安心したからなのか、お礼を言った後はすぐに気を失ってしまって。目が覚めた時には自分の家にいました。……ああ、いえ、なにかのお役に立てたのなら幸いです。



[ 7/40 ]

[*prev] [next#]
[mokuji]
[しおりを挟む]



-TOP-
×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -