憑喪


目を開けると知らない天井が見えた。……はて?私は先程まで大変美しい湖の畔にいたのじゃあなかっただろうか?
顎に手を当て首をかしげる。ふと起き上がってベッドに腰掛けると、そのまま、ついでとばかりに辺りを見回してみた。どうやら家具は殆どなく、ぽつりと置かれた椅子には男が1人座っている。

「……あ、おはよう」

ごそり、という衣擦れの音で気付いたのか、本から顔を上げると、そう言って男はにこりと微笑む。

「…………おはようございます」

警戒しながらも挨拶を返す。私が挨拶を返してくれたことが嬉しいのか、男はぱああ、と見るからに笑顔が深くなった。

「……助けて下さってありがとうございます。ところで貴方はどちら様でしょうか」

私がそう言うと、男は見るからに慌てた様子で両手を顔の前でぶんぶんと振った。……自分は危害を加えませんよアピールか?

「そっ、そうだよね!まだ名乗って無かった!僕の名前は樫原代耕!!君が僕の家の近くで倒れていたのを発見してね!それで慌てて僕の家に連れてきたんだ!」

ところで気分はもう平気かい?にこにこと笑いながらそう言うと、男は本を閉じて私の方へと近付いてくる。

「ええ、大丈夫。私は九十折狭軌」

私は警戒を解き、男ににこりと微笑んだ。

[ 5/40 ]

[*prev] [next#]
[mokuji]
[しおりを挟む]



-TOP-
×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -