月夜



月の美しい夜のことだった。


私はただ森の中をひた走り、形容することの出来ない何かから逃げ惑っていた。その何かは私の想像なのかもしれなかったし、大きな影だったのかもしれない。とにかく私は恐ろしくて、安心できる場所まで逃げ果せてしまいたかったのだ。
暗い森の中を走ると、時折木の根に躓きそうになった。ぐるるると低い獣の唸り声が聞こえる気がしたし、木と木の間の闇という闇から何かがじいっと見ているような気もした。私がそれらに泣きそうになりながらも走り続けると突然、ぽっかりと広い場所に出た。
思わず立ち止まって周りを見渡すと、どうやらそこは美しい湖の畔の様だった。きらきらと光を反射する水面と、時々風に吹かれ、ゆうらりと揺れる月に見惚れていると、突然、視界が歪み始めた。


……ああ、私は湖の水にでもなってしまったのかしら。そう考えたのを最後に、私は、

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